2章・困った大国

第1話 オルセナ王都セシリーム

 3日後、3人は大陸を東に向かっていた。


 エルクァーテ・パレントールに頼まれた通り、オルセナ王国の王都セシリームへと向かうことにしたのである。



 向かう間に、ルヴィナはエリーティアから王都の状況を大体聞かされた。


 オルセナ王国の勢力は現在大きく3つに分かれているという。


 一番トップにいるのは、前女王エフィーリアの息子であり、エリーティアには兄にあたるルーメル・ロークリッド・カナリスであるがまだ14歳であり、1人で全てをなすことはできない。


 その父親な摂政ツィア・フェレナーデや侍従長シルフィ・フラーナスらがいる前女王の連れてきた部下を中心とした勢力がまず一つ。エルクァーテ・パレントールもここに属している。この勢力には比較的有能な人物が多いが、オルセナと代々結びついていたわけではなく関わり合いが低い。

 そのため、広い支持は受けておらず、何をするにしても多くの国民の反発を受けているという実情があるらしい。


 次にレイシェ・リーネンク・ホールワープを筆頭とするセシリームに元から住んでいた面々と元来の貴族達である。伝統だけはあるのでうるさいが、さりとて何かをできるほどの能力を持ち合わせているわけでもない。結構面倒な存在ということらしい。


 最後に大陸の南西と南東に住むカチューハとコレイドの2部族を中心にしたセシリームの支配から独立した二勢力がいる。この面々は単純にセシリームの支配を拒んで独立を主張しているが、オルセナに独立国は存在しないという反発がセシリームには大きい。



「相手が強いのに、王都は分裂。負けて当然」


 ルヴィナはそう吐き捨てる。


 と言っても、現実はそういうものだとも認識している。


 負けそうになればなるほど、他人のアラが目につくようになり、反感を抱くものであるらしい。


「とりあえず摂政に会いたい」


「そうですね。エルクァーテ将軍を通じて頼んでみましょう」


「……エリーティア様からでも良いのでは?」


 父と娘なのに間に人を通す。違和感を覚えたが、あるいは妻を失った夫が娘に対して恨みを抱いているのだろうか。


(聞かない方がいいかもしれない)


 気にはなったが、詮索をしないことにした。


 ルヴィナの目的は摂政ツィア・フェレナーデに会うことである。


 エルクァーテが急死していればともかく、そうでないなら彼女のルートで会っても構わないだろう。



 オルセナ軍総司令官エルクァーテ・パレントールの屋敷はセシリームの王宮水上宮殿の南側にある広い敷地の建物であった。


「やあ、久しぶり」


 出てきたエルクァーテにルヴィナは頭を下げる。


「元気そう。何より」


「……それは新手の嫌味か何か、かな?」


 余命半年の人間に対する言い方ではないだろう。そうエルクァーテは苦笑したが、ルヴィナは動じる風でもなく応じる。


「他意はない。そう見えただけ」


 少し前に余命半年であるから、今は四、五か月であろうか。その人間に対して「元気」というのは確かに嫌味のように聞こえるが。


「戦場に出れば、すぐにも死ぬ。余命三か月でも一か月でも元気に過ごすべき」


「ま、確かにね」


「摂政に会いたい」


「あぁ、そうだね。セシリームに来たのなら摂政殿には会っておいた方がいい。ちょうど明日は宮殿に行く予定だから紹介するよ」


「それは助かる。明日までは生きてほしい」


 エルクァーテは苦笑して、アタマナを見た。


「主人殿は相変わらず、一言多いね」


「すみません、そういう人なんです」


 アタマナが頭を下げる。



「では、私はこれで失礼しますね」


 用件が終わったと見たのだろう。エリーティアが頭を下げて出て行った。


「……王女様は父とも会いたくなさそう。やはり出自故?」


「究極のところはそこになるのだろうけれど、父と娘の仲が悪いわけじゃないよ」


「では、何故?」


 エルクァーテを通そうとしたこと、明日一緒に来るつもりはなさそうなこと共々、あまり会いたく無さそうに見える。


「貴族達が毛嫌いしているというのが大きいね。あとは警戒している者も多い」


「警戒?」


「つまり、国王陛下と王女殿下は兄妹だが、この2人は別に仲が悪いわけではない。むしろ良好と言うべきかな」


 国王ルーメルにしても、母が死んだのは2歳の時であるからほとんど記憶にない。


 記憶にない母を死なせたことで妹を憎むといった事態にはならない。


「ただ、前女王を懐かしむ面々にはそれも癇に障るようでね。王女殿下が宮殿にいると色々殺伐とした空気になる。それが分かっているから、2年くらい前から宮殿にはほとんど来られなくなった。だから、何か用がある時に国王陛下や摂政が直接出向くわけだけど、そういう用もあまりないからね」


「……ということは、エリーティア様はほぼ1人で生活を?」


「そうだね。従者が1人か2人、いたとは思うけど」


「……」


 ルヴィナは思わずアタマナの顔を見た。


「どうしましたか?」


「隣の大陸の長旅中でも2人は大変。なのに日常生活から従者1人のみ。私なら発狂する」


「……それって、どういう意味ですか?」

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