第22話 盗賊討伐
3日後、ハルメリカから200人の警備隊を連れて、ルヴィナは東へと出発した。
「盗賊達の行動パターンは同じ。奴らは一般人よりは強いが、正規兵より弱い。だから森や山に隠れる。誰もいない時に集落を襲い、好き勝手する。つまり」
森や山の隠れ場所を見つけることが重要である。
「私達は獅子。奴らはハイエナ。獅子はコソコソしないが見つける必要がある」
「なるほど。僕達は百獣の王・獅子である、と」
獅子という喩えにゼシェルの気分は良い。
「そう、獅子。獅子の狩りは雌が主導。雄は寝転がっているだけ。役に立たない。私達もそう」
「ルヴィナ様、そんなことを言ったらダメですって」
ゼシェルがムスッとなり、アタマナが小声で苦言を呈する。
行軍は大変であるが、正規兵を引き連れているので移動自体に苦はない。
当然に集落の利用ができるし、ハルメリカの近くには交易向けの拠点も用意されており、リフレッシュがしやすい。
意気揚々と街道沿いに進み、アタンミ城が近づいてきたところで北へと向かう。
一ヶ月ほど前に戦場となったノシュール村から更に北に向かうと、茂みや森が点在した高原地帯が見えてくる。
ルヴィナはその地点を指さした。
「正規兵が出てくれば、ああいった茂みに隠れてやりすごす。もし勝てると思ったら出て来る。ハイエナと同じ」
エリーティアが顎の下に指をあてて考え、質問をする。
「何か見つけ出す方法があるのですか?」
「……ない。斥候を派遣して探すか、あとは勘」
「勘ですか。勘で多くの兵士を動かしたくはないですね」
「そう。ただ、動きたくないことを優先すると見逃す。それを繰り返すとことなかれ主義、役立たずの治安維持活動となる」
そう言って、アタマナに指示を出す。
「あの茂みを探ろう」
「了解です!」
アタマナが敬礼して、馬を飛ばしていく。
エリーティアもゼシェルも驚いた。
「た、単独で行かせて大丈夫なんですか?」
「問題ない。アタマナはあの見かけで頼りない。実際に変態。だけどしっかりしている」
「ほ、褒めているのかけなしているのか分からないんですけれど……」
大丈夫ということらしい。
しばらくしてアタマナが首を横に不利ながら戻ってきた。
「いないみたいです」
「残念。勘が外れた」
ルヴィナは頭を振り、奥の森の方を向く。
エリーティアとゼシェルもそれぞれ周囲を見渡しているが、ゼシェルが「うん?」と北西の方に視線を向けた。
「どうした?」
「今、この方向の向こう側で何かが動いたように見えたけど」
ゼシェルの言葉に、全員がその方向を見るが特に茂みや森はない。
「風で揺れたのかな」
当のゼシェルも自信なさげに言うが、エリーティアが一角を指さした。
「あの辺りだけ草が少し高くないですか?」
「言われてみれば。よし、斥候を出そう」
今回もアタマナが斥候として出されて、エリーティアが指示したポイントを目指す。
「あっ!」
アタマナが突然、何かを振り回して草地の中に放り投げた。たちまち煙のようなものがあがり、何人かの男達が左右に散らばる。
「よし、行くぞ!」
ルヴィナの指示に兵士達も意気上がる。逃げる面々を追いかけて次々に倒していく。
夕方までに三つほどの小隊を壊滅させた。
盗賊相手なので捕虜にとるような悠長なことはしない。見つけ次第切り倒していき50人前後を倒した。
「……実戦とはこういうもの」
ゼシェルに声をかける。
そのゼシェルはここまで二回、相手の潜む場所に感づいていて貢献していた。
「大公子は戦士より隠密の才能があるのかもしれない」
と、ルヴィナも評価しているほどだ。
意図しない方向ではあるが、褒められていることには変わりがないのでゼシェルもまんざらではない様子だ。
「良かったね、ゼシェル君」
エリーティアにも褒められ、鼻高々という様子である。
その後、部隊は付近に三日滞在して、更に50人ほどを倒した。
「キリがない。ただ、これだけ倒すとしばらくこの地域には出づらいはず」
ルヴィナの言葉に部隊全員が意気揚々となり、そのままハルメリカへと戻っていく。
途中、ルヴィナがエリーティアの肩をつついた。
「はい?」
「個人的に話したいことがあります。良いですか?」
ルヴィナは少し離れたところを指さした。
「……分かりました」
承諾して、隊から少し離れた場所に移動していく。
隊から50メートルほど離れたところに2人が馬を並べた。
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