第17話 追放将軍の不覚
ホヴァルト軍が全軍撤退したのを確認して、ルヴィナは本軍に合流した。
エルクァーテは疲労もあるのだろう。背もたれのついた椅子を設置して、そこに横たわっていた。
「将軍、大丈夫か?」
「まあ、何とかね。体力が落ちているんだろうね。疲れ具合が凄いよ」
よいしょ、と言いながら身を起こす。
「どうにか勝利できたようだ。助力、感謝する」
「勝利は皆でつかんだもの。私の助けなど微々たるものに過ぎない」
「いやいや、負け犬と化していたオルセナの兵をあれだけ前向きにさせたんだ。さすがに隣の大陸最強は違うと感心したよ」
「……」
確かに、自分がいつも率いている兵と比較すると不満だらけであったのは事実である。
負け犬根性が染みついているのは言うまでもなく、練度も足りないように感じた。
長期的な訓練などが必要なのではないかと思ったが、それをする者がいないのだろう。
「それでも私の力はたいしたことない。一番の功績はエリーティア様。彼女が敵半分を無能力化させた」
半分というのは誇張ではない。雪崩で敵軍左翼の動きを封じて、中央も混乱させた。
ホヴァルト軍は3万には満たない数字だったようだが、1人で1万5千近い兵力を無効化させたのだから間違いなく勝利の大立役者である。
「そうだね。我々はあの方を見誤っていた……」
エルクァーテは副官イリアの助けも借りて、椅子から降りた。
「ルヴィナ・ヴィルシュハーゼ殿、頼みがある」
そう言って、エルクァーテとイリアをはじめ、その場にいた全員がルヴィナの前で跪いた。
これにはルヴィナもアタマナもびっくりする。
「将軍……これは一体?」
「……私に残された時間はほとんどない。エリーティア様の支えとなることもできない。だから、ルヴィナ殿、貴方にお願いしたい」
「いや、それは……」
「我々は今まで、エリーティア様が偉大なる女王陛下を死にいたらしめた存在だと思い、暗い情念をもって接していた。だから、今更こんなことを言える筋合いでないことは百も承知しているのだが、オルセナを救うことができるとすればあの方しかいない!」
「将軍……そうした姿勢は病身に響く。一度座ってもらいたい」
自分より遥かに年長の総司令官に土下座で嘆願されるとはさすがに想像もしていなかった。
跪く姿勢が負担になって病状が悪化しては困るので、椅子に戻るように勧めるが。
「いや、貴殿が承知してくれるまでは……!」
「うへぇ……」
ルヴィナは思わず呻き声をあげて天を仰いだ。
アタマナが小声でささやいてくる。
「どうします? エルクァーテ将軍は真面目な方ですから、多分本当に動かないと思いますよ」
その言葉が更に憂鬱にさせるが、アタマナの言う通りであろう。
元々、少しでもオルセナを持ちこたえさせるために自分を囮にして敵軍に大打撃を与えようというくらい忠誠心の強い彼女である。元々捨てた命と思っているだろうから、ルヴィナに土下座することも何とも思わないだろうし、承諾するまでは死ぬまで動かないつもりでいるだろう。
つまり、この件に関してはルヴィナに勝ち目はない。
「……私は監視官として来た。まず役目を果たす必要がある」
既にオルセナ軍の指揮官として参加しておきながら、監視官も何もないが、一応、監視官として派遣したハルメリカのレルーヴ大公に報告しなければならない義務がある。
「それは成すしかない。それが終わった後、時間の許す限りは王女のそばにいよう」
ようやくエルクァーテ達が顔をあげた。
ルヴィナは口を”へ”の字に結ぶ。
「ただ、私も永遠にはいられない。それは理解してほしいが、一年くらいは共にいよう。私もエリーティア様には興味がある。もう少しどのような方か見てみたいし」
「ありがとうございます!」
全員が一斉に頭を下げ、感謝の言葉を口にする。
「……やりにくい」
ともあれ、承諾したことでエルクァーテ達も元通りの活動に戻った。
「オルセナの一地域には古来より伝わる伝承があってだね」
「伝承?」
「『国が立ち、千年紀を超える頃には国は未曽有の大混乱に陥る。それを再建させるのは闇より出でし神の娘だ』という伝承だ」
「……さっぱり分からない」
「今年でオルセナ建国から772年となるが、実はそれ以前にも200年ほどの歴史がある。つまり、そろそろ千年になるんだよ。そして、エリーティア様が御生まれになった時に、女王陛下が亡くなったことからこう陰口を囁かれていた。『暗黒の娘』、『闇からの姫』と」
「……エリーティア様が伝承の娘である、と?」
「今になって、そうかもしれないと思うようになったよ。身勝手なものだ」
「……伝承や伝説は関係ない。それは過去に残された者。私達が見るのは今と未来」
「そうだね」
話をしている間もルヴィナは色々と準備をしている。ハルメリカに戻るための準備だ。
それが終わると、ルヴィナは立ち上がった。
「それでは、一度ハルメリカに行く。その後、オルセナへ行くことにする」
「あぁ、待っているよ」
エルクァーテが右手を差しだしてきた。
ルヴィナは不承不承という様子だが、それでも右手を出し、握手をかわした。
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