第13話 出撃
その日のうちに、アタンミ城内にいるオルセナ軍にエルクァーテから出撃命令が下った。
翌朝、3万のオルセナ軍がアタンミ城を出撃し、北へと向かう。
「しかし、今更言うことでもないと思いますが、陣営の中枢にいるのが女ばっかりですよねぇ」
アタマナが言う通り、総司令官のエルクァーテ、その副官のイリア・パルアミル共に女性であり、王女のエリーティアがついてきていて、そこにおまけのルヴィナとアタマナがいる。
「男の有力者は貴族であることが多いからね。貴族同士はどうしても勢力争いに絡んでしまい、動けない」
「それでも国家の危機ですから、そこは国王陛下がドドーンと主導できたりしないのでしょうか?」
「国家の危機ももちろん危機だが、国内の派閥争いもそれに負けないくらい危機なのだよ。一方、私達は貴族ではないが女王陛下に見出された者だ」
オルセナの人材難には複合的な要因がある。
まず、カリスマ的な女王が12年前に急死したことにより、国王周辺が弱体化した。
エリーティアの兄にして現在の国王ルーメルにしても14歳で、多くの貴族諸侯をまとめられることはできない。その父にして王配であるツィア・フェレナーデはオルセナの仇敵であったビアニー王家の出身なので、これまたオルセナ諸侯には指図できない。
その一方で、オルセナ諸侯の間でも主導権争いが酷い。
仮に彼らの中から、防衛軍を作るとなった場合、誰を上に立てるかでもめることになる。
唯一の例外がエルクァーテ・パレントールであった。彼女の場合は、亡きカリスマであった女王が選んだ人材なので、さすがに認めざるを得ないという理由だ。
「私の他にも侍従長のシルフィ・フラーナスなど、女王の友人的存在だった女子がオルセナに多く残っている。男は他国の者が多かったので、オルセナには入りづらいという状況になっていて、その結果、こうした軍を編成した時にも女子が増える。まあ」
エルクァーテがルヴィナとアタマナを見比べる。
「助っ人まで女子というのはあれだけどね」
「確かに。しかし。余計な気遣いをする必要がない。楽」
「そうだね。さて、と」
エルクァーテが副官のイリアに視線を向ける。
「そろそろホヴァルト軍に礼のものを届けてくれ」
「分かりました」
「……?」
駆けだしたイリアを見て、ルヴィナは首を傾げる。
「ホヴァルト軍に手紙を出すんだよ」
「手紙? 何の?」
「八日後に決戦をしようという手紙だ」
「また随分と古風」
相手軍に対して、「この日に決戦をしようじゃないか」と呼びかけることは珍しい。相手が受けてくれるかどうか分からないし、受けてくれた場合にもこちらの出方を教えることになるので、一部の作戦が取りにくくなる。
「少なくともホヴァルト軍はこういうのは受けるよ」
「……確かに。相手には最強の国王がいる」
この戦場には出てきていないが、ホヴァルト王ジュニス・エレンセシリアは大陸最強の存在であるという話だ。相手側から「この日に戦おう」と言われて「いや、ちょっとやめとこう」なんて言うはずがない。その部下達も断ることはできないはずだ。
「あとはエリーティア様次第であるが」
そのエリーティアは先に戦場に向かっている。正確には戦場の東側にある山だろう。
「雪崩は起こせるのかもしれないが、本当に敵軍に落ちるのかな?」
「分からない。しかし、王女は色々計算している。私は計算が苦手。何をしているか分からないが王女は組み立てている」
「信じがたいな」
「年齢からすると信じがたい」
「いや、そういうことではなくて」
エルクァーテが苦笑しながら言う。
「女王陛下……王女の母はそうした勉強が大嫌いな方だったから」
「勉強が嫌いなのにカリスマ。中々不思議な存在。私は勉強している。ただし、分野の偏りは否定しない」
「そうですね。ところで」
アタマナが話題を変えた。
「ルヴィナ様は自分の隊を見なくてよろしいのでしょうか?」
昨日のやりとりで、ルヴィナはオルセナ軍の右翼を指揮することになった。
しかし、その隊には行かずにずっとエルクァーテにくっついている。いざ戦場になった時にそれで大丈夫なのか?
エルクァーテは大丈夫と見ているらしい。
「侍女殿はあまり将軍殿を信用していないらしい」
そう言ってまた苦笑した。ルヴィナも応える。
「アタマナは戦の素人。軍のことは分からない。細かく口出しして大敗させる。傾国の美女」
「大敗させるとか傾国の美女まで言わなくてもいいんじゃないですか!?」
アタマナが反論しているのを一通り聞き終えて、エルクァーテが説明する。
ルヴィナは早朝、部隊に簡単な行動訓練をさせた。しばらく指示をした後、五人を呼び出して言った。
「軍は規律ある行動が大切。貴様らの行動は遅すぎる。貴様らのために軍を全滅させるつもりはない。夕方もう一度訓練する。その時も遅ければ追放。もしくはお前達五人のみ別行動で囮。死んでもらう。以上」
ルヴィナも頷いた。
「私は夕方と言った。しかし今も見ている」
時々視線を移して、行軍状況を確認しているようだ。
「緊張感がある。これで良い」
「ほえ~、ちゃんと見ているんですね」
「それが私の仕事。私はそれしか出来ない」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます