第6話 戦闘近し

 国王に紹介状を書いてもらったルヴィナは、すぐに港に向かって大陸の西端・ハルメリカへの船に乗り込むことにした。


 行程は3日。距離は相当にあるのだが、追い風を受けるので相当に早い。


 ちなみにエルリザとハルメリカは地理的に絶妙な位置にあるようで、北側では風が西から吹いてきて、南側は東から風が吹いてくる。航路を変えることによって、行きも帰りも追い風を受けることができる。


「レルーヴ大公の船なんかは魔法の力もあるから、たったの1日半で行くことができる」


 船の中ではそんな話も聞いた。


「魔法の船。どんなものか。一度見てみたい」


「大陸は戦争しているそうですから、ルヴィナ様が将軍として働くなら乗せてもらえるかも?」


「……それは嫌」


「ワガママなんですから……」



 予定通りの3日の航路で、船はハルメリカ港についた。


 大陸最大の港町として知られており、広い港に何十隻もの船が停泊している。


 内陸で育ったルヴィナとアタマナにとっては船自体目新しい。それが何十隻もというのは、予想を遥かに超えたものでしばらく目を奪われる。


 それが短時間で済んだのは、港の方が騒々しいからだ。


 気になって、何を騒いでいるのか近づいてみた。



「ホヴァルト軍がアタンミ砦に向けて出撃した!」

「オルセナ軍もアタンミ砦に向けて軍を出したらしい!」

「ここ1ヶ月以内に新たな戦闘が行われそうだ!」



 要約するとこういうことのようだ。


 スイールに向かうまでの戦場で聞いた「大陸では戦争中」、「島国のスイールのみ平穏」という言葉はどうやら嘘ではないらしい。


「ふうむ……」


 ルヴィナは腕組みをした。アタマナが首を傾げる。


「ルヴィナ様、どうされました?」


「戦闘が行われる。見てみたい」


 ルヴィナはこの大陸では余所者である。手持ちの兵もいないから、自分が戦場に出ても、故郷周辺のように活躍できるとは思っていない。


 しかし、それとは別に、この違う大陸ではどのような戦闘が行われるのかは興味がある。


 単純に見てみたい、という気持ちが湧いてくる。


「えぇ? 危険じゃないですか?」


 アタマナの返事は当然といえば当然のものである。


 ルヴィナは軍に参加することはないと言っている。


 それで見たいと言って、見られるのなら苦労しない。戦場の近くにいたのなら、戦闘行為に巻き込まれる危険があるし、スパイなどと勘違いされて攻撃されるリスクもある。


 しかし、戦場のことを色々知っているだけあって、ルヴィナは抜け道も知っている。


「……監視官として参加」


「監視官?」


「そう、監視官として参加」


 戦場に出たとしても、全員が全員戦闘するわけではない。


 当事者から認められれば、第三国から中立の立場として観察して本国に伝えることも可能であるし、一方当事者側で参加する場合でも戦闘には参加せずに分析だけをする役回りもある。それらを総称して監視官という。


「これを使う」


 と取り出すのは、スイールで貰ってきた国王の紹介状だ。


 アタマナが渋い顔をする。


「これで、ハルメリカのレルーヴ大公を説得して監査官として戦場に行くんですか? そんなにうまくいくのでしょうか?」


「お前次第」


 ルヴィナはそう言って、アタマナに紹介状を渡す。アタマナの目が点になった。


「えっ……どういうことですか?」


「私は口下手。アタマナは口達者。だから、アタマナがレルーヴ大公を説得」


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」


 慌てるアタマナの肩にルヴィナが手を置いた。


「おまえならできる。期待している」


「日頃変態だとか散々に言っているのに、都合の良い時だけ急に頼りにしないでください!」


 アタマナの反論を聞くことなく、ルヴィナはレルーヴ大公の居館の場所を聞き込み、さっさと移動を始めた。


 アタマナはガックリと頭を落として、重い足取りでついていく。


「あぁ、何て理不尽な扱い、何て酷い人なのでしょう。ですが、これも惚れた弱みというもの。報われぬ愛のために、私は尽くさざるを得ないのですね……って、聞いています!? ルヴィナ様!」


 足早にレルーヴ大公の居館に向かうルヴィナを追いかけて叫ぶが。


「……ブツブツ言ったのは分かる。中身は聞かない」


 ルヴィナの返答はマイペース極まりなかった。

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