第5話 国王との会談
38歳というが、スイール国王セシエルは年齢以上に若く見える。髭などを一切伸ばしていないうえに、童顔という見た目的なところもあるのだろうし、しっかりと鍛えられていて動きがキビキビしているのもあるのだろう。
「こんにちは。報告は受けたよ、君がミベルサの名将『金色の死神』なんだって?」
国王の挨拶に、ルヴィナは一礼する。
「初めまして、陛下。私はルヴィナ・ヴィルシュハーゼ。それ以上でもなければそれ以外でもない。金色の死神は確かに私の異名。ただ私が自分で名乗ったわけではない。他人が勝手に呼んでいるもの」
「あ、あの、ルヴィナ様……?」
アタマナが小声でささやいてくる。
「相手は国王ですから、もう少し丁寧なあいさつの方が」
ルヴィナの話しぶりは誰が相手でも変わらない。若干の口下手があるので、言葉を短く切ってしまう癖がある。目下ならともかく、目上相手だと馬鹿にしているように聞こえなくもない。
しかし、ルヴィナは気にすることはない。
「私はそういうのが苦手。嫌ならそれでいい。私が会いたくてここに来たわけではない」
「ハハハハハ」
国王が笑った。
「はっきりしていて気持ちが良いね。どこまで名将なのかは分からないけど、自我と胆力の強さは並外れたものを感じるよ」
国王に褒められて悪い気はしない。ただ、喜んでいると「ここにいてくれないか?」と言われる可能性もある。だからルヴィナはまず結論を伝える。
「船長から委細を聞いた。この国の事情は理解した。大勢戦死して人が少ないのは大変。ただ、私はここに居つく気はない。そんな能力もない」
またまたはっきり過ぎる物言いにアタマナと船長が「えぇぇ」と顔を青くするが、国王は苦笑するだけだ。
「別に滞在を勧めるつもりはないよ。国王がこういう言い方をするのも何だけど、スイールよりは大陸の方が面白いだろうしね」
「そう。大陸に行きたい」
「でも、誰かのアテはあるの?」
「ない。この大陸に知り合いはいない。母のルーツはこの大陸。だけど、母はとうの昔に死んだ。アテになるものは誰もいない」
率直なルヴィナの発言に国王は再度苦笑し、くるりと後ろを向いた。壁に貼られているスイールとアクルクア大陸の地図を指さす。
「スイールがここで、船で3日ほど移動すると西の端ハルメリカにつく。そこに付近一帯の統治者たるレルーヴ大公がいるんだけど、彼女への紹介状を書いてあげるよ」
意外な申出であった。ルヴィナもアタマナも目を丸くする。
「良いのか?」
「君は名将なのだろうけれど、中々面白い子でもあるからね。多分、レルーヴ大公も喜ぶと思うよ」
「面白いつもりはないが……」
ルヴィナは首を傾げる。
「紹介状は非常に助かる。恩に着る」
「それなら一つだけ恩返ししてもらってもいいかな?」
「……仕官は無理」
ルヴィナが急に表情を険しくして答えると、国王は3度目の苦笑を浮かべた。
「だからそれは求めないって。実はハルメリカには僕の息子がいて現在11歳になる、どうやら武官になりたいらしいので、何か教えてやってくれると嬉しい」
「……何故、異国に国王の子が?」
引き受ける、引き受けないということより、まずスイールの王子が別の国にいるということに驚いた。
王子が他所の国にいるというのは中々聞かない話だ。留学などの一時的なことなのだろうか。
と、アタマナが「そういえば」と替わって質問を投げかける。
「陛下にはお子様がいらっしゃるけれども、結婚はされていないと船長から聞きました。それと何か関係があるのでしょうか?」
「まあ、関係はあるかな。といっても大した理由じゃないよ。彼の父は僕で、母は海を渡ったところにいるレルーヴ大公だ。仮に結婚して2人の子ということを正式に認めれば、彼は2か国の継承者となる。良くないよね」
ルヴィナはもちろん、アタマナも首を傾げた。
「……何故?」
「1か国を統治することだって大変なんだよ? スイールみたいなところでも結構大変だ。それが2つなんて手に余るよ。だから、彼のためにもやめておこうとなったわけ」
「……更に不可解」
ルヴィナは国王の言葉に首を傾げる。
「誰だって支配地は沢山欲しい。言いがかりをつけてでも支配したがる。支配したくて戦争もする。しかし、陛下は子に2か国は多いと言う。子の支配地を減らすために結婚もしないと言う。ありえない。信じられないこと」
「まさにそこだよ」
国王が指を向けて指摘する。
「2つ持てば3つ目が欲しくなるのが人情というものだ。そうなると周囲に手を出すことになるけれど、周囲が滅茶苦茶強いから多分失敗する。身の程を知って1つをきっちり管理する方が良い」
「でも、息子に才能があるかもしれない」
「才能があるなら、1か国からスタートでも本人が何とかするよ」
「……成る程。過ぎたるは猶及ばざるが如し。国の数についても同じ」
「そういうこと。チヤホヤされた挙句にロクでもない死に方をした人を大勢知っているからね。1人しかいない自分の息子にそうなってほしくないな、というのはある」
「……私が陛下の子の期待に沿うかは分からない。ただ、できることがあれば協力する」
この国王は中々良い人物のようだ。
スイールに長居したいとか、この国に仕えるとまでは思わないが、向こうが協力してくれた分を返すことについては全くやぶさかではない。
ルヴィナは快く国王の提案を受け入れることにした。
つまり、この後は船で対岸に渡り、そこにいるスイールとレルーヴ統治者の王子に会いに行き、指導できることくらいはする、ということだ。
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