第4話 スイール国王との面会
程なく、船はスイール王国の王都エルリザに上陸した。
乗客が次々と降り、久しぶりの陸地の感覚を味わう。
ルヴィナとアタマナもその例外ではない。両足の下に大地がある感覚を確認しつつ、温浴して着替えて船長とともに国王との対面に備える。
「しかし、ルヴィナ様が軍服姿で、侍女がドレス姿というのはどうなんでしょうね」
船長が苦笑いを浮かべる。
身分で言うなら、ルヴィナは伯爵である。少なくとも元伯爵である。一方アタマナはその侍女に過ぎない。
しかし、服装はアタマナの方がドレス姿でルヴィナは軍服姿、パッと見では侍女が姫のように見えてルヴィナがその従者のように見える。事実、船長は最初見間違えていた。
ルヴィナは気にする素振りもない。
「……私は将軍。将軍がドレスを着るのは変」
「まあ、それはそうなんですけどね……。他所の大陸から最強の将軍が来たと言っていて、ドレスっていうのも変でしょうし……。ただ、何か身分的に逆というか……」
「別に気にしない。もし国王が望むなら、アタマナが伯爵でも良い」
ルヴィナの言葉に船長もアタマナも目を丸くする。
「どういうことですか?」
「アタマナは変態だが美人。国王が望むかもしれない。伯爵令嬢にして寵姫でも良い」
「そ、そんなぁ!」
「アタマナがいなくなれば私は自由。それが良い」
「嫌ですよ! 私はルヴィナ様と永遠に一緒ですから!」
泣いてすがりつくアタマナに対して、船長は「そういえば」とつぶやいた。
「国王陛下には寵姫はおろか、王妃もいないのですよ」
「ほう?」
「いやいや、絶対に王妃になんてなりませんから! 私も軍服にしますぅ! ルヴィナ様の服を貸してくださいよぉ!」
「……断る。貸すと、服がロクな目に遭わないことが確実」
「そんなことしませんってば!」
バタバタしている2人から視線をそらして、船長が「ダメだ、これは」とばかりに肩をすくめた。この2人は大体いつもこんなやりとりをしていることが分かってきたようである。
そんなやりとりがありつつ、2人は王宮に向かう。
その間に国王についても色々と話を聞いた。
「セシエル・ティシェッティ国王陛下は元々公爵家の三男で、王位継承権はおろか実家の継承権もない人だったのですが、17年前に大陸の国が攻め込んできてしまいまして」
その戦争で、当時の国王一族はもちろん、公爵家の父や兄も全員戦死してしまい、気づいたら王位継承権者の筆頭になっていたらしい。
「その後、敵を追い払ったこともありまして、国王になったということです」
「国を勝たせた者が王。自然なこと」
「元々スイールは島国なので、あまり戦争もしなかったのですが、その戦争で貴族や指揮官が大勢戦死してしまいました。ですので、有為な人を探しているというわけです」
「……理解はするが」
ルヴィナにとっては面白くない話である。
「だから、私に来てほしい? それは断る」
「それは承知していますが、せめてお話くらいは……」
「……仕方ない」
それは船を降りる時に承諾したことである。
ただ、そこからスカウトに進む可能性も高そうだ。それは断って、大陸の方に行きたい。
王宮に入る頃には、更に話を聞いて、スイールという国の現状を理解する。
スイール王国は17年前の戦争で多くの人を失い、人材不足となった。そのため、他所の大陸から船が来ると、国王自ら招いて食事会などを開いて移住や仕官を勧めているらしい。
「大陸の中間点にあって交易の中心地になれる。悪い場所ではない……。国王も人を探すに熱心。良いことだ」
スイールにスカウトされるつもりはないが、スイール国王が国のために頑張っているとは感じた。
「しかし、結婚もせず、後継者もいないのは良くない」
貴族や指揮官が大勢戦死したということは、後継者となれるような存在もほとんどいないことになる。
国王は38歳とまだまだ健康を気にする年齢ではないらしいが、何が起きるか分からない。
早めに後継者を作っておくに越したことはないだろう。
「やはりアタマナを差し出す。それが吉」
「嫌ですってば!」
また先程のやりとりに戻ったところで、船長が苦笑交じりに言う。
「王妃はいないのですが後継者はいるんですよ」
「……ということは、先立たれた?」
「いえ、そういうわけでもないのですが……」
「……?」
船長は「それは国王陛下から直接」と誤魔化してくる。
嫌な予感がした。
スカウトを断ったとしても、後継者に関する余計なことでも頼まれそうだ。
そうこう考えているうちに、王の間に入る。
スイール国王の目の前まで、やってきた。
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