第3話 女将軍、新大陸に立つ
大陸連絡船は、港を出航し、南西へと向かった。
先ほどまでいたミベルサ大陸から、目的地のアクルクア大陸までは通常の船ならばおよそ三か月だが、高速船であるため二か月程度で着く。
船に乗り込む者の半分は船員として働くことで船賃を出すが、ルヴィナとアタマナは旅費を全て払っている。ゆえに雑用を気にすることなく、食事も優先的に持ってきてもらえる。
ただし、最上客船ではないので風呂などはない。
「ルヴィナ様~」
アタマナが笑顔で入ってきた。
「蒸しタオルでお体を清めに参りました」
ルヴィナはげんなりとした顔を侍女に向ける。
「いい……。自分でやる」
「えぇ!? ご自分では丹念に拭けませんよ?」
「多少はいい。おまえに任せる方が……不安」
「そんなぁ! じっくり見ようとか、こっそり舐めようなんて全然思ってないですってば!」
「……」
反論する侍女からタオルを取り上げ、部屋から突き出す……というような一幕があったのではあるが。
およそ二か月の船旅の末、船は異大陸へと近づいてきた。
「皆さん、船はあと3時間ほどでスイール王国の王都エルリザに着きます!」
船長の大声が聞こえてきて、他の乗客も甲板に上がってくる。
「あれがスイール……うん?」
船の行く先に群島が見えてきた。
海に浮かぶ島々を見た機会のないルヴィナにとっては新鮮な光景であるが、ふとおかしなことに気付く。
「アタマナ」
隣に沸いてきた侍女に声をかけた。何ですか、と振り返る彼女に。
「……目的地が違う。私が行きたいのは大陸側。島の方ではない」
「はい?」
アタマナが目をパチパチと瞬く。
「そういえば……そんなことを、おっしゃって、いましたね……」
脂汗をダラダラと流し、どう抗弁したら良いものかと目を左右に動いている。
ルヴィナは小さく息を吐いた。
「まあ良い。気づかなかったのは私も同じ。船に乗ることばかり考えた。行き先を見なかった。どうせ放浪の身。遠回りも仕方ない」
やりとりが聞こえたのか、船長が近づいてきた。
「大陸側への船も毎日出ていますよ。一番近いハルメリカなら3日もあれば着きます」
「そうか……」
「それに、大陸側はドンパチやっていますので、しばらくこっちで様子を見た方が良いかもしれませんよ」
船長の言葉に、ルヴィナは目を見開く。
「戦争か……?」
「はい。数年前からやっていますが、最近は海に近い側も戦場になっているようですね」
「それは厄介……」
「スイールは島国なので無関係……とまでは言いませんが、さすがに戦闘なんかはありえないですからね。状況を見極めてどちらかに仕官すれば歓迎されるのでは?」
「……手持ちの兵もいない。不可能」
ルヴィナの言葉に船長はニヤッと笑う。
「お望みとあらば、ここで調達することも可能ですよ?」
「……傭兵か? 金がない」
「いえ、この後、積み荷を王宮に運びますので、その際、国王や大将軍様とお会いして、一つ話でもすれば」
兵士を借りることが可能だ。
船長の言葉に、ルヴィナは首を傾げた。思った言葉は「こいつ、正気か?」である。
「わざわざ違う大陸に来て兵を借りる。全く興味のない話。エルリザに着いたらそのまま次の船を待つ」
船を降りたら、そこまで。
ルヴィナはそう船長に言ったが、船長が慌てだす。
「そ、そんな、待ってくださいよ。スイール国王も大将軍も、隣の大陸から来た名将を迎える機会なんてないんです。せめて、王宮までは」
船長が急に頭を下げだした。
面倒くさい。
ルヴィナはそう思った。
向こうがこちらに興味があっても、こちらは相手に興味がない。
とはいえ、よくよく考えれば、この船での待遇は値段以上だった感もある。
こうしたことを見据えてのことだったのかもしれない。
それに海の者はネットワークが繋がっているという。邪険に扱ってしまえば、次の船以降で非協力的な態度を取られる可能性もある。
「……仕方ない。王宮には付き合う」
「おぉ、ありがとうございます!」
喜ぶ船長と裏腹に、ルヴィナは溜息をつく。
「場所が変われば戦い方も違う。私のやり方は参考にもならないはず。そんなことを知っても仕方ないのに」
ぼやきながら、船が波止場に到着するのを待った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます