第6話 惑星セレナの神話

 ★


 翌日、セナは宙港にいた。


 別にそれは、約束を守ろうと思ったわけでなく、それがセナの日課になっていたからだ。

 宙港のドームは一部透明で、母星がよく見える。

 少なくとも、セナは自分にそう言い聞かせていた。


「それにしても、あの人無事に来れるのかしら?」


 その心配どおり、ライトはこの世の終わりとも思えるような叫びを上げながら彼女の前に登場した。


「ぎゃ~っ。たすけてくれ~!!」


(最悪、自分で呼んでおいてかっこ悪い……)


 セナは、呆れて大きなため息をつくとライトを助けてやった。


「私に何の用なの? あんな『ソリッド』で私を驚かせて」


 セナは、彼と別れたあと冷静になると、ライトが突然現れた方法が分かったのだった。

 ソリッドと呼ばれる立体映像投影機。

 研究所にいながらでも、映像だけはセナの元へ飛ばすことも可能だ。


「驚かしたつもりはないんだけど、お礼が言いたくて。ソニアさんに言ったら、あの方法が早いって教えられて」


「まあ、あそこは公園だからいいとしても、所長さんみたいにどこにでもソリッドを投影するのは違法よ」


 セナは呆れたように言った。


「え、そうなの? セレナじゃいいのかと……」


「そんなわけないでしょ。私有地内ならともかく、許可なくあっちもこっちも覗き見ができたり、映像が進入できたら問題じゃない」


 ライトはソニアがやっていることがセレナでは合法なのかと思っていたが、そうでなかったことを知り聞かなかったことにした。


   ★


「それより、昨日のお礼がしたくてさ」


 ライトは本来の目的を思い出し、胸のポケットから小さなガラスキューブを差し出す。


「なにこれ? わあ、かわいい!」


 セナが、両手で受け取り覗き込むとそこには小さな黄色の花が封入されていた。


「この花はかつてセレナに咲いていた花を研究所で再生したもの。僕は、ソニア所長のところでセレナに合う植物を研究するために来たんだ」


「へえ。本当に緑の指なのね」


「母星のように、セレナが緑で満ちたら素敵だと思わないかい?」


「そうね……」


 セナは、小さい頃に姉と花冠を作ったことを思い出した。


 懐かしく暖かい思い出。



「君は、セレナの神話を知っている?」


「昔、この衛星は『ツイン』だったと言うこと? 母星の月は二つあったとかいう?」


「そう、母星ティエラには、二つの衛星があったといわれている。その衛星が何らかのことでバランスを崩し、母星のロッシュ限界…えっと、大きな星のテリトリて言うのかな、そのエリアに小さな星が入ると引力と遠心力でバラバラになるんだ。かつて二つあった衛星はこの母星のロッシュ限界に入り片方のエレンは砕け、セレナは無事だった。そして、不思議なことに、砕け散った衛星エレンは今は母星ティエラの円環となっている」


「円環? 母星の輪っかのこと?」


「そうだよ。君が見上げていた母星の月虹環だ」


 セナは、惑星の歴史は知っていたがあまり興味がなくうろ覚えだった。


 ライトは母星の神話をゆっくり語る。


 セナに、どうしてもその話を聞かせたいかのように。


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