第3話 美人なソニア所長

 ★


 二人は宙港を後にして、居住区へ向かう。

 その間、青年ばかりが話していた。


「僕の名前は、ライト。みんな、ライトとか『エル』って呼ぶから、君もそう呼んで」


 セナは、その名前を聞いて青くなって身を硬くした。


「『エル』……?」


 それは、セナの死んだ姉の名前と同じだった。


「その名は呼びたくないな、フルネームは?」


「言いたくないんだけど……」


「じゃあ、私も教えない」


 セナが、冷たく言うと彼は長い沈黙の後、自分の名前を告げた。


「ライト・レイク・ランカスター」


 彼女は、何かの呪文かと思い穴の開くほど彼の顔を見つめた。


 彼は、やはり言うんじゃなかったという風に視線をそらした。


「Light・Lake・Lancaster 全部『L』がつくし、君が今思ってるようになんかの呪文かと思うほど長いし……」


「私が思ってることわかるの!?」


 彼は、一瞬目を大きくした。

 しかし、すぐにため息混じりに苦笑した。


「僕は『テレパス』じゃないから、わからないよ。けど、僕の名前を聞いた人は大抵そう言うから」


 どうも、名前のことなのかなんなのか、本気で落ち込んでいるらしいライトを見て、セナはからかうのはやめた。


「まあ、忘れられなくていいんじゃない?」


 セナは、精一杯のフォローのつもりだったが、駄目押ししただけ。


 居住区の通りは、人がまばらでそんな二人の様子に気づく者などいなかった。


 ★


 居住区を抜けると、研究施設の立ち並ぶドームのエントランスにたどり着く。


 働いているもの以外は出入りが禁止のため、セナは両親が働いている研究施設すら立ち入ったことはなかった。もっとも、申請すれば見学はできるのだが、姉の死から心を閉ざしてしまった彼女は、そこまで両親の仕事に興味はなかった。


「待ってましたよ。ランカスター博士!」


 出迎えの研究所員は、真っ赤な口紅に体の曲線があらわなボディスーツの妖艶な美女だった。


「ソニア所長ですか??」


 ライトの頓狂とんきょうな叫びが響く。


「んふ。そうですわ。ようこそ『緑の指』研究所へ」


 両手を広げ満面の笑みをたたえる女神を見ながら、その言葉を反芻はんすうした。


(緑の指か……。お姉ちゃんがそんな童話が好きでよく言ってたな) 


 触れただけで、草花をよみがえらせる魔法の指。


 そんなの、あるわけない……。


 枯れた花は、二度と咲かないし、

 死んだ人は帰ってこない。



 セナは、美人も嫌いだし、それに鼻の下を伸ばすような男などもっと嫌いだった。


 だから、さよならも言わずにその場を飛び出して行った。



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