第2話 無重力の苦手な青年
★
「セレナじゃ、涙は飛ぶんだな」
不意に声をかけられて、セナは青い目を見開いた。
「ごめん。俺、母星を離れたのは初めてで見るもの何でも珍しくて、つい」
声をかけたのは、今、セレナの宙港についたばかりの青年だった。
大きな荷物を持った彼は、人懐こそうに笑った。
無重力に慣れないのか、大きな荷物がなぜ浮いてるのか戸惑いながら高い背を丸めて必死で抑えているありさまだ。
傍から見れば、笑えるような青年の様子を見てもセナは興味を示さず、その場から立ち去ろうとした。
僅かばかりの跳躍で、少女の小柄な体は数メートルもその場を離れて飛ぶことができる。
「ちょっと、まって!」
それを見た青年はあわてて引きとめようと体勢を崩した。
それは、無重力につかまることになる無謀な行為だと、セレナの地を始めて踏んだ彼は知らなかった。
無重力では、急の付く行動はしないことが鉄則。
慣性で止らなくなるのだ。
「うわ~っ!! たすけて~」
青年の体は、ぐるぐると回っている。
この世の終わりかと思うような叫び声に引き止められ、セナは大きなため息を吐くと仕方なく戻った。
結果として、彼はセナを引き止めることに成功したのだった。
★
セナの助けで、止まったものの冷や汗をかきながら彼は苦笑いした。
「無重力ってあこがれてたけど、危ないものなんだね」
「
あと、居住区は重力調整してありますから心配ないです」
彼女は、自分の役目は終わったとばかり冷たく言う。
「よかったら、案内してくれない?」
セナは断ろうと思った。
お姉ちゃん子だったセナは、もともと人見知りする性格だった。
それに、もうずっと誰とも話などする気持ちになどなれなかったからだ。
(お姉ちゃんが帰ってきてくれれば、それだけでいいのに……)
「ダメかな?」
黒髪に蒼い瞳の青年は、どうみてもセナより4.5歳年上に見えた。
しかし、高い背を丸めすがるように彼女を見つめる姿はどう見ても頼りない。
先ほど、無重力につかまったのがよほど怖かったのだろう。
セナは、そんな彼の顔を見ながらしばらく断る口実を探した。
けれども、見つからなかった。
彼の願いを聞き入れたのは、単に『断る理由がない』
ただ、それだけのことだった。
「いいわ、案内してあげる」
その言葉に、彼は飛び上がって喜ぼうとした。
「絶対、飛んじゃダメ!!」
セナに叱られ、青年は所在無く頭を掻いた。
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