【短編】TWIN MOON―見上げてごらん星の輪を―

天城らん

第1話 宙港のセナ

 

 宙港のロビーに一人の少女が腰掛けていた。


 緩やかに波うつ蜂蜜色の髪。

 肩までの長さのその髪を指に絡み弄んでいたが、ため息とともにぱっと放した。



(お姉ちゃんの髪はもっと長くて、さらさらだった……)


 少女は、離発着するシャトルを緑の瞳に映しながら、それよりももっと遠くを見つめていた。

 シャトルの飛び立つ空を……宇宙を見ていた。


 漆黒の空の向こうには、青い母星とそれをめぐる金の環が輝く。


 月虹環と呼ばれる、円環を持つ母星の名はティエラ。


 そしては、ここはその衛星つき


 ――――― 『銀の月セレナ』


 ★


 少女の名は、セナ・アクシス。 


 母星から離れ、この衛星セレナに来たのは6ヶ月前だ。

 両親の仕事の為ではあったが、理由はそれだけではなかった。


 セナと3つ違いの姉が、母星で亡くなった。

 生まれつき体が弱く、長くは生きられないだろうと言われていた。病床にあっても、美しくやさしい姉は、セナにとっては憧れの女性だった。

 医療が進み、長寿命となった世の中においてセナの姉の死はあまりにもは早すぎた……。


 その悲しみを忘れるためにも、違う環境へ…セレナへ来たのであった。

 しかし、宙港のロビーでぼんやりと星を見上げ悲しみにとらわれることが、セナの日課になっている。


(ここで待っていても、お姉ちゃんは追っては来ないのに……わたしは、何をしてるんだろう)


 両親は、新天地での仕事に追われ、その忙しさで娘を失った悲しみを紛らわそうとしている。


 セナは、自分だけが取り残されたような気がし、涙が溢れた。


 その涙は、真珠のように丸く珠になるだけで頬を流れることはなかった。


 セレナは、居住区は若干の重力制御はしてあるものの、他のエリアや宙港は、ほぼ無重力に近い。



 瞬きをし頭を振ると、セナの涙は輝きながら方々に散った。




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