さいころ

第1話

『二時間で五万!!破格のアルバイト!!興味がある方は下記の・・・・』

「ねえこれ!神アルバイトすぎ!」

「明らかな闇バイトだろ。馬鹿か?」


 築50年、旧耐震基準で作られたボロアパートの中でダラダラと大学生という貴重な時間を浪費している。


「大体そんな甘い話があるはずねえよ。世の中舐めすぎ。」


市川星夜、それが目の前でガリガリ君を食べながら俺の人格批判をしている男の名前だ。サークル仲間でいつの間にか大学で一番仲良くなっていた。というより、こいつのズバズバ言う性格が楽で他のやつとつるまなくなったのが原因な気がもするが・・


「でもよ、金がねえんだよ。金がなきゃなんにもできねえよ〜。」


夏休みも始まったばかりであったが俺は金欠だった。そう金が欲しい。金がなければ趣味も楽しめないし、サークル内飲み会で女を引っ掛けることもできない。


「つうか、なんで金ないんだ?夏に向けて貯めるって言ってたよな。」

「ああ、パチで全部すった。」

「何回目だよ、、それ。そろそろパチもこりただろ。」

「ええ、でもさ、、、」


星夜の言い分も分かる。だが、パチはやめれない。だって仕方がないじゃないか、女とヤッているときよりもドーパミンが出てくるんだ。そんなパチをやめれる訳がない。


「なあ、なんかいいバイトないか?」

「うーん」


星夜の眉間にシワがよる。段々と険しい表情になり、床に溶けたガリガリ君の液が垂れている。星夜ははっきり傷つける言葉を吐くが優しい。そして面倒見がいい。前だって怪しげな消費者金融から金を借りて法外な金利を請求されたときにも必死に弁護士事務所への相談や、お金を貸してくれたりしてくれた。きっと俺みたいな奴が無視できないのだろう。なにかと損な性格だと思う。


「あ!ある。いいバイトが。ちょうどお前にピッタリな。」

ニヤつきながら星夜は答えた。

「どんなやつ?」

「ちょっとした荷物を運ぶのを手伝ってもらう。」

「物運ぶだけ?」

「そう物を運ぶだけ。」


物を運ぶだけか・・楽そうだ。ニヤついていた星夜の態度は気になるが、いいバイト

なのだろう。


「つか『手伝ってもらう』って、これもしかして星夜の手伝い?」

「・・・・・そう。」

「ぜっっっっっっっっっっったいやだ!!!!!!!友達の下で働くとか絶対無理!!パシリみたいやん。」

「そんな言わんでもええやんて。物運ぶだけやで。それにな日給5万出すわ。」

「星夜さんありがとうございます。」


具体的な内容は、近場の駅のコインロッカーにあるバックを持って最寄りの公園のベンチに置くということだった・・・いやわかる。明らかに怪しいのは認める。現に星夜からはバックの中を見たら金はやらんと言われたし。なかなかに黒・・・いやほぼグレーぐらいだと思う。これはセーフ。犯罪じゃない。中身は知らない。なら仕方がないにきまっている。もしヤバい物だったとしても俺は被害者だ。そうでないとおかしい。


「なんか聞きたいことあるか?」

「いや・・・その・・・」


俺は態度に出やすいと思う。今もヤバさを察知してから貧乏ゆすりが止まらない。いつのまにか星夜は正座で机を挟むように俺と向かい合っている。なのに顔はニヤついているのが気味が悪い。


「そんな警戒するほどヤバい仕事じゃないって。全然セーフ。中身も大したもんじゃないから。」


半笑いで星夜は言う。星夜は口は悪いがいい奴だと認めている。そんな俺をハメるような真似はしないはずだ。


「わかった。いつするんだ?」

「明日。」

「早えよ。」



飯が食いたくなる昼時。なんだかんだ近場の駅のイスに座っている。昨日のことが不安であんまり眠れてないせいかとても眠い。さっさと終わらすか。早歩きでコインロッカーに向かう。星夜からもらった鍵でロッカーを開けると、大きな黒いバックが一つ置いてあった。そこそこ重く一キロはあるだろうか。何が入っているかは想像もつかない。


さっきからなんだろう。いつもは感じない視線がこちらを見ているように感じる。それに前まで気にならなかったのに監視カメラの位置や周りの会話などが気になってしょうがない。なんでだ、いつもこんなこと思わないのに。そんな拭いきれない違和感を持ちながら、近場の公園に向かった。


公園に着きベンチに荷物を置く。星夜に連絡してから猛ダッシュで家に帰った。何故走ったのかはわからない。ただ何となく怖かった。



「ありがとうな!!まじで!!助かったわ。」

「お、おう」


俺が家に着いてから一時間後くらいに星夜が来た。星夜は五万を俺に渡し、笑顔で腕を掴み上下に振っている。星夜のこんな笑顔初めてみた。だが気分は悪い。何故だろうか、後ろが常に気になって仕方がない。それに目を瞑るのも怖い。とにかく見えないことが怖いのだ。


「なあこれ、ガチで安全なんだよな。」


自分の出た言葉で、自分が何に怖がっているかが自覚できた。そうか俺は警察が怖かったのか。つまり


「これって犯罪じゃないよな。」


助けを求めるようにそう呟いた。


「・・・犯罪だよ。もう戻れねーぞ。」


星夜は気味の悪いニヤついた顔でそっと俺に宣告した。

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さいころ @hidakakouki

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