第11話 番外編 2
瑠生さんとお付き合いを始めて一ヵ月が経った。
付き合ってすぐの休みではショッピングモールに二人で髪留めを買いに行った。
「ユイさん、好きな色何?青、似合うよねえ。白も可愛いけど。ちょっと暗い赤もいいかも。ユイさん、着物とかもいいんじゃない?夏は浴衣着ちゃう?俺も着ちゃおうかな」
ウキウキしながら髪留めを選ぶ瑠生さんと一緒にいると、私も楽しく、二人で色々と選んだ。
「あー、俺、困っちゃう。ユイさん、似合うのばかり。二つは買おうかしら。そしたら、壊れてもすぐに代えがあるし。一つは俺、選ぶから、もう一つはユイさん自分で選んで?」
シンプルな物にするのか、お洒落な物にするのかで悩んでいた瑠生さんだったが、結局シンプルな物にしていたので、私は少し華やかな物を選んだ。
「ね。今、コレ、着けれる?」
「すみません、すぐに使っていいですか?」
瑠生さんの質問に頷いて、会計の時に私が聞くとお店の人が頷きながら椅子を指さした。
「あちらの椅子をお使い下さい。宜しければ、私、編み込みましょうか?アップにします?簡単でいいなら出来ますけど」
え。いいのかな、と、私が思っていると、瑠生さんが頷いた。
「えー。嬉しい。ユイさん、可愛くして下さい。デートの時の髪型ってあるのかしら」
瑠生さんの言葉にお店の人はニコリと笑って、「任せて下さい。デートの時はちょっと手が込んだ方がいいんです。編み込んで少しアップにして、首筋を見せて、で、わざと崩して・・・」と、手際よく髪を編んでまとめてくれた。
店員さんは私の髪を触りながらも、瑠生さんにしっかり、「季節によって、アクセサリーを変えると彼女さん、可愛いですよ。初詣には椿の簪とか、お花見には桜のモチーフとか、梅雨の時期には紫陽花だとか・・・」と、着物に会う物、浴衣に会う物の説明をしながら編み込んでくれたので、瑠生さんは「なーに。それだとまたユイさん素敵になっちゃって俺、心配。でも、ユイさん、また来ようねえ」と、良いお客さんになっていた。
そうやって初めてのデートを終え、その後の週末も瑠生さんと出かけたり、私の部屋に遊びに来たりと、私達の交際は順調にスタートしていた。
社内恋愛はどうかと思っていたが、瑠生さんの人柄なのか、あまりにも堂々としているからか、日吉田以外は皆、私達に好意的だった。日吉田は、「鳥飼先輩は認めない」とか、瑠生さんを見かけたら、二人でやり合っていたけれど、私は実は二人は仲が良いのではないかと思っている。
「あら、楠木ちゃん、今日デート?」
そして今日も無事に定時で仕事が終わり、更衣室で化粧を整えてピアスを着けていると、田中さんが口紅を塗りながらロッカーの鏡越しに聞いてきた。
「はい。今日はインド料理を食べに行きます」
「ふふふ。なんだか、食べてばかりのデートねえ。この間、また、ちょっとアドバイスしてあげたのに」
「?」
私がピアスを着けて振り返ると、田中さんは首を傾げて、「まだまだねえ」と言いながら口紅をポーチに入れた。
「田中さん、今日はいつもと違う色ですね?」
「そ。今日はPTAの集まりなの。お遊戯会のお話し合い。だから、色はちょっと抑えめで、でも、綺麗目ママで行くのよ。綺麗すぎで行かない事がポイントね」
「成程、派手にならないように、と言う感じですか?その色、落ち着いていて素敵ですよ。普段のオフィスでも使ったらいいのに」
「ありがと。楠木ちゃんのピアスも可愛いわよ。オフィスでは派手な色を使いたいの。仕事のモチベーションを上げたいのよ。こう、ドーンとね」
私が、「ドーン」と、繰り返して頷くと、田中さんはパチンとウインクをした。
「鳥飼さんの事で相談事があったらいつでもウェルカムよ。さ、鳥飼さん、もう待ってるんじゃない?」
「はい。その時はお願いします。では」
私がバッグを持って、「お先に失礼します」と言うと、ひらひらと田中さんは手を振って「また来週」と言った。
オフィスを進んでエレベーターが見えてくると、非常階段の近くで瑠生さんが待っていた。
「ユイさん」
私を見付けると手をあげて、へらりと瑠生さんは笑った。
「瑠生さん。お待たせしました」
「お待たせしてないよ。俺が勝手に待ってるだけなのよ。じゃ、行きましょうか」
エレベーターのボタンを押して、乗り込むと瑠生さんはすぐに閉めるボタンをダダっと押した。
「?」
急いでるのかな?と瑠生さんを見上げると、「ん?」とへらりと笑って返された。
「ユイさん、人は学習するものなのよ。俺も、日々、学習なのよ。この間、お姉様達からもねえ、『生きてる限り、日々勉強よ』と叱咤激励されたのよ」
「確かに」
そんな話をしながら、会社を出て二人でのんびり歩いて路地を抜けていくと、スパイスの良い香りがし出した。
「もう、ここから分かりますね。会社から結構近いのに、私、知りませんでした」
「うん。裏通りだからね。ああ、俺、腹ペコ。ユイさん、何食べる?俺、ラッシー飲もうかしら」
カランっとドアベルを鳴らして瑠生さんと私が店に入ると、「イ、ラッシャイ、マセーー」とインド人の店員さんが迎えてくれた。
「ア、トリカーイサーン。ラッシーノムネ?アレ?オンナノコ?カワイイネー」
「レヤンシュ、俺の彼女。奥の席いい?」
「ワー!マッテ、マッテ。アリシャ、イウカラ。アリシャー?トリカーイサン、キタヨ!オンナノコ!!」
瑠生さんがインド人のレヤンシュと呼んだ人と話すと、奥から民族衣装を着た女の人も出てきて、男の人と話し、私を見て驚いて鳥飼さんを見た。
「いらっしゃいませ。鳥飼さん、彼女、本当?可愛いネ。私はアリシャです。宜しくネ」
「楠木ユイです」
「楠木さん?ユイさん?」
「あ、どちらでも」
「アリシャさん、楠木さんにして」
鳥飼さんが横から話し、アリシャさんは笑いながら、「楠木さん、宜しくネ」と言って、席に案内してくれた。
「ユイさん、ごめんね。俺が行くとこ、皆こんな感じになるかも。俺に彼女出来たって知ったら、皆見に来ると思う」
「瑠生さん、人気者なんですね」
「そう?だったら嬉しいけど。俺、からかわれてるだけかも。田中さんによく遊ばれてるのよ」
お水とメニューをレヤンシュさんが持ってくると、ニコニコして鳥飼さんを見ていた。
「レヤンシュ、顔が煩いよ」
「トリカーイサン、ヒドイネ。ボク、ナニモ、イッテナイ。ネ?」
「レヤンシュさんが、何か言いたそうにしてたのは私でも分かりました」
「ほら、レヤンシュは顔が煩いって」
「クスノーキサン、ナカヨクネ。カレー?ドレスル?」
メニューを私に渡して瑠生さんは、レヤンシュさんと楽しそうに話していた。
「私は、日替わりナンセットとマンゴージュースをお願いします」
「俺は、Cセットで、チーズナン、あと、ラッシー」
「ナン、ヒガワリ。マンゴー。Cセット。チーズナン、ラッシー、イジョウネ?」
「ん」
「オマチクダサイ」
レヤンシュさんはニコっと笑うと、厨房に注文を出した。レヤンシュさんも厨房に引っこむと、瑠生さんは苦笑いした。
「レヤンシュとはさ、一年位の付き合いなのよ。アリシャさんの方が四年位。アリシャさんがこの店のオーナー。レヤンシュはアリシャさんの旦那さんの弟なのよ」
水を一口飲むと、奥の厨房からも手が降られて、瑠生さんはひらひらと振り返した。
「俺がこの店にカレーを食べに行こう、と会社を出たところでね、怪しいインド人が会社の近くでキョロキョロと下を見ながら歩いていたのよ。で、俺が『どうしたの?』って聞いたんだけどねえ。その怪しいインド人ってレヤンシュだったんだけど、全然日本語喋れないのよ。で、英語でどうにか聞くと、財布は無くすし、行先を書いた紙もなくしたって。で、一文無しで、迷子って言うのよ。困り果てて、財布が落ちてないか下向いて探してたらしいのよ」
「大変でしたね」
「うん。で、財布が届けられてないか、近くの交番に行こうって言って、連れてったら、財布が届いてて。で、財布にメモ用紙もあってね。行き先が、ここだったのよ。だから、またここまで連れてきてあげて、アリシャさんに送り届けたのよ」
瑠生さんの話を聞いていると、カレーが運ばれてきた。
「鳥飼さんのおかげで、レヤンシュ、助かったネ。あの時はレヤンシュ、交番に不審者として連れていかれたかと思ったって言ってたよ」
「あら。そうなの?まあ、目をぎょろぎょろさせて、必死に地面見ながら歩いてたもんねえ。不審者って言えば不審者だったよねえ」
「鳥飼さん。今日は二人にデザート、サービス。好きなデザート選んで。鳥飼さん、彼女、よかったネ」
ニコリと笑ってアリシャさんは厨房に戻り、瑠生さんは照れながらも、「ユイさん、こんな感じばかりなのよ。俺の片思い、皆知ってるのよねえ」と言って、嬉しそうに私の手を握った。
「瑠生さんは皆に愛されてますね」
「うん。でも、俺が愛されたいのは一人だけ」
「私が愛したいのも一人だけです」
私がそう言うと、「俺の彼女、素敵すぎる」と言いながら、瑠生さんはさらっと私の手を撫でた。
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