第4話 影の真相
冷たい風が吹き荒れる中、瑠璃は彩音の日記を握りしめながら、再び学校へと向かっていた。日記の中に記された「黒い影」の言葉が、彼女の心に重くのしかかっていた。誰かが彩音を連れ去り、どこかへと追いやった――その確信が、彼女を突き動かしていた。
学校に着くと、廊下はいつもと変わらない雑多な声で満たされていたが、瑠璃の心は重苦しさから逃れられなかった。教室に入ると、いつも通りの光景が広がっていたが、彩音の席が空いていることに再び胸が締め付けられる思いだった。彼女は静かに席に着き、授業が始まるのを待った。
しかし、今日もまた、授業の内容は頭に入ってこなかった。瑠璃の目は黒板を見ていても、心は別の場所にあった。彩音が最後に姿を見せた日から、彼女の周りには何か不穏な空気が漂い始めている。彼女は、自分の力が何かを掴もうとしているのを感じていた。
放課後、瑠璃は静かに教室を出た。今日は、どうしても行かなければならない場所があった。彼女は校庭を抜け、学校の裏手にある古びた校舎へと足を運んだ。この校舎はもう使われておらず、人気もなくなっていたが、昔は倉庫として使われていた場所だ。彩音がよくここで一人静かに過ごしていたことを、瑠璃は知っていた。
古びた校舎に入ると、ひんやりとした空気が彼女を迎えた。薄暗い廊下を歩くと、足音が冷たい床に響き渡る。瑠璃は慎重に歩を進めながら、霊媒としての感覚を研ぎ澄ませた。この場所には、何かがいる――そう感じたのは、校舎の奥に差し掛かった時だった。
彼女は目を凝らし、薄暗がりの中に何かを探そうとした。すると、ふいに背後から微かな囁き声が聞こえた。彼女は反射的に振り返ったが、そこには誰もいなかった。だが、その囁きは確かに聞こえていた。
「助けて…」
瑠璃は緊張を感じつつも、その声に導かれるように廊下を進んだ。そして、彼女が古びたドアの前に立ち止まった瞬間、再び囁き声が聞こえた。
「ここに…いるの…」
彼女は躊躇することなくドアを開けた。中には、古びた机や椅子が乱雑に積み重なっており、その隙間から、かすかな冷気が漂ってきた。瑠璃はその冷気に導かれるように、ゆっくりと部屋の中を進んだ。そして、部屋の隅にある古いクローゼットの前で立ち止まった。
「彩音ちゃん…ここにいるの?」
瑠璃が問いかけると、クローゼットの扉がぎしりと音を立てて開いた。彼女は息を呑み、その中を覗き込んだ。だが、そこには何もなかった。ただ、暗闇が広がっているだけだった。
しかし、その時、彼女の視界がふいに歪んだ。まるで空間が揺らぐかのように、彼女は強烈な眩暈を感じた。何かがこの場所で力を発揮しようとしている――瑠璃はその感覚を確信し、再びクローゼットの中に目を凝らした。
「助けて…お願い…」
その声は、今度ははっきりと耳に届いた。彼女は息を詰め、霊媒としての力を使い、全神経を集中させた。すると、クローゼットの暗闇の中から、ぼんやりとした人影が浮かび上がってきた。それは、確かに彩音の姿だった。
「彩音ちゃん…!」
瑠璃は思わずその手を伸ばしたが、その影はすぐに消え去った。彼女の手は空を掴んだだけだったが、確かにそこに彩音がいたことを感じた。彩音は、どこかで苦しんでいる。彼女は助けを求めていた。瑠璃はその事実を受け止め、強く心に刻んだ。
その時、背後で物音がした。瑠璃が振り返ると、桐山祐介が静かに部屋に入ってきた。彼は瑠璃の驚きの表情に気づき、優しく微笑んだ。
「ここにいると思ったよ、瑠璃。」
瑠璃は驚きつつも、すぐに彼の存在に安堵を覚えた。
「祐介さん…どうしてここに?」
桐山は少し笑みを浮かべながら答えた。
「君がここに来る気がしてね。それに、彩音ちゃんのことを放っておくわけにはいかないだろう?」
瑠璃はその言葉に頷き、彩音が苦しんでいることを桐山に伝えた。
「さっき、ここで彩音ちゃんを見たんです。彼女が助けを求めている。でも、どこにいるのかまでは分からない…」
桐山は瑠璃の言葉を真剣に受け止め、深く頷いた。
「それだけでも十分だ。君が感じたものは確かだ。今はそれを信じて、彩音ちゃんを救うために進もう。」
瑠璃はその言葉に勇気をもらい、再び立ち上がった。彼女の中には、母親から受け継いだ霊媒としての力が確かに息づいていることを感じた。そして、それが彼女を彩音の元へと導いてくれると信じた。
「祐介さん、ありがとうございます。私、絶対に彩音ちゃんを見つけ出します。」
桐山はその決意を見て、力強く頷いた。
「君ならできるよ、瑠璃。君の力を信じて。」
彼らはその場を後にし、彩音を見つけ出すための手がかりを探しに出発した。瑠璃はこれまで以上に、自分の力と向き合い、霊媒探偵としての道を歩み始めた。彼女の中には、母親の遺した影を乗り越え、自分自身の力で道を切り開く覚悟が確かにあった。
外に出ると、冷たい風がさらに強まっていたが、瑠璃の心にはもう迷いはなかった。彼女の目には、闇の中で光を見つけようとする強い意志が宿っていた。彩音を救い出すための戦いは、今始まったばかりだった。
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