第27話 魔石を持つ魔物

 そんなこんなで野宿を終え、次の日。

 領地の中の屋敷のある街にほど近いところで、魔物に襲われていた。


 ビッグスパイダー。

 D級の魔物で、下手な冒険者パーティーでも運が悪ければ全滅するレベルの魔物だ。

 リーチェが全線でメイド服のスカートをはためかせながら戦っている。

 その後ろから、私とカレイシアさんが魔法で援護していた。


「ちぃっ! ついてないですね、もうすぐだったって言うのに!」

「しかも何かコイツ、普通のビッグスパイダーよりも硬いぞ!」


 私は魔法で土を弾丸風に固め、更には魔法で風を細かく操って、その土の弾丸に回転をかけながら高速でビッグスパイダーに飛ばす。

 土魔法と風魔法を組み合わせた拳銃風の魔法だ。


 ドンッ!


 土の弾丸はビッグスパイダーの甲殻を簡単に突き破り、白濁色の体液が飛び出してくる。

 うへぇ、ばっちい。

 しかしそんなことを言って目を逸らすわけにはいかない。

 私は更に続けて弾丸を放つ準備をするのだった。



   ***



「……ふぅ。何とか勝てましたね」


 目の前に横たわるのは巨大な蜘蛛型の魔物の死体。

 基本、魔物の死体は自然分解されて空気に還っていく。

 突然現れては突然消える、不思議な生物ってわけだ。


 初めての強敵に疲れて座り込む私と、怯える馬たちを宥めるリーチェ。

 そんな中、徐ろにカレイシアさんはその死体に近づくと、ナイフで外骨格を剥がし始めた。


「何してるんですか?」

「ん? ああ、コイツ、普通のビッグスパイダーより強かったからな。もしかしたら魔石がないかなと思ってな」


 そう言いながら慣れた手つきで解体していくカレイシアさん。

 私はそんな彼の背中に質問をぶつける。


「魔石が取れる魔物って強いんですか?」

「ああ、体感だとそんな感じだな。普通の魔物より、魔石ありの魔物の方が一・五倍くらいは強いな」


 ふむ。

 それはいいことを聞いた。

 今の私の一番の関心は魔力についてだ。

 魔力というものが何かを探るためには、この魔石が鍵になりそうなんだよね。


「とと、やっぱりあったぞ」

「本当ですか!?」

「ああ。ほら。必要ならやるよ」


 そう言ってカレイシアさんは私の方に魔石を放り投げてきた。

 私は慌ててそれを受け取る。

 受け取ろうとしたとき、私の腕輪とぶつかって……


 バチッ!


 もの凄い力で弾かれるように反発し合った。


「…………え?」


 なんだ?

 どういうことだ?

 私の血の混じったミスリルの腕輪と反発し合った?


 それを傍から見ていたカレイシアさんも驚き目を見開いている。


「何が起きたんだ?」

「いえ、私にもさっぱりで……」

「う〜む、俺には思いきり反発し合ったように見えたが……何故、そんなことが……?」


 私は弾かれて地面に落ちた魔石を拾い直し、もう一度腕輪に触れさせてみた。

 すると


 バチッ!


 やっぱり反発するように弾かれていった。

 う〜ん、磁石のように魔力にもS極とN極がある……?

 しかし何がそれを分けてるんだ?


 そんな風に思考を巡らせていると、馬たちを宥め終えたリーチェが声をかけてきた。


「そろそろ出発しますよー! 今日中には街に入らないと面倒ですから、早く行きましょう!」


 確かにそれはそうだ。

 私たちは再び馬車に乗り込み、数時間後、ようやく実家のある領地の街に帰ってきたのだった。



   ***



「あらあら、おかえりなさい、レイラ。それと……カレイシアさん、ですよね? 初めまして、エレナ・フォン・アルシュバインです。いつもうちの娘がお世話になっております」


 屋敷の前に辿り着くと、母がそう言いながら出迎えてくれた。

 カレイシアさんは母にカーテシーで挨拶され、少し居心地悪そうに片膝を下げ深々と礼をした。


「エレナ伯爵夫人。お初にお目にかかります。カレイシア・フォン・アルブバーンです」


 その丁寧な挨拶に母は少し苦笑いをしながら微笑んで言った。


「そんな丁寧にする必要もありませんよ。ここは完全に非公式の場ですからね。もっと肩の力を抜いても良いのですよ」

「そうですか……。ありがとうございます、そう言ってくれて助かります」


 まだ一応敬語だったが、母の一言でかなりリラックスした雰囲気になった。

 それから母は屋敷の中に戻りながらこう言った。


「かなりの長旅で疲れたでしょう? ゆっくり紅茶でも飲みながらお話ししましょうか。積もる話もあるでしょうし。特にレイラ。王城での噂は兼々聞いていますよ。とても凄いことをしたんですってね」


 そう言われ、私は恥ずかしくなる。

 やっぱりいつになっても、両親に自分の努力や成果を知られるのは意外と恥ずかしく、なかなかどうして慣れないものなのだった。

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