第25話 領地にかえろう

 そして次の日の朝。

 私たちが屋敷の前で待っているとカレイシアさんが荷物を抱えて現れた。


「貴方がカレイシアさんなんですね。レイラ様から噂はかねがね聞いております。よろしくお願いします」

「ああ、よろしく頼む。しかし……どんな噂をしているのか気になるな」


 リーチェとカレイシアさんが挨拶をする。

 しかしカレイシアさんがすぐに疑うような視線を私に向けてきていた。

 全力でそっぽ向いた。

 昨日、リーチェにカレイシアさんがツンデレであったと話したばかりだ。

 この世界にツンデレという言葉自体はないが、概念はちゃんと伝わった。

 なので、それを知られるのはかなり拙かった。


「なう〜〜」


 私がそっぽを向いたせいで腕に抱かれたアルルが、カレイシアさんの疑いの目を一身に受ける。

 居心地悪そうに弱々しく鳴いた。


「……はあ。まあいい。どうせろくでもないことなんだろう。ともかく、早く出発するぞ。夜までに宿場町に入ればベストだからな」


 ここからうちの領地までは馬車で三日かかるが、その間に一つ宿場町があった。

 そこに早めに辿り着ければかなりこの旅は楽になる。

 逆に夜までに辿り着けなければ、二回も野宿をすることになるのだ。

 どちらにせよ、一度は絶対に野宿確定なんだけどね。


 しかし……案外遠いんだよね、あの宿場町。

 普通宿場町って、余裕を持って夜までには辿り着ける場所にあるもんなんじゃないだろうか。


 とにもかくにも、私たちは馬車に乗り込んで走り出す。

 御者はもちろんリーチェだ。

 冒険者もやっていただけあって馬の操縦も熟れていた。

 流石は万能メイドである。


 石畳の街道をガタガタと走る。

 リーチェが馬の操縦が上手いと言っても、サスペンションなんてものもないからお尻が痛くなってくる。

 ううっ、サスペンションも開発したい……。

 ……あっ、馬と上手いを掛け合わせたギャグとかじゃないからね?

 私、そんなつまらないことを言う人間じゃないからね?


 それから昼頃まで何事もなく進み、一旦昼食の休憩を取ることになった。

 昼食はリーチェが朝っぱらから作ってくれたサンドイッチだ。

 私たちがノンビリサンドイッチを食べていると、急にカレイシアさんが立ち上がって言った。


「ちょっと下がってろ。森の奥に何かがいる」


 そして言う通り、近くの森の中からダークウルフが三匹出てきた。

 なかなか手強い相手だ。

 確かE級くらいの魔物じゃなかったかな?

 E級ともなれば、下手な大人でも一方的に食い殺されたりするから油断ならない。

 緊張感が走る……って、ああ、緊張感なんてなかった。


「……ふう、やっぱり炭鉱で身体を動かしただけあってスムーズに討伐できました」


 リーチェは瞬く間にダークウルフに距離を詰め、バスタードソードで斬り殺した。

 三匹とも反撃の余地すらなかった。


「……は?」


 カレイシアさんが困惑の声を上げる。

 ああ、そういえばまだ言ってなかったっけ?


「リーチェはA級の冒険者なので。なかなか心強いんですよ」


 私がそう言うとリーチェはサムズアップした。

 その言葉にカレイシアさんの口元がヒクヒクと痙攣し始めた。


「俺が来た意味とは……。A級の冒険者がいるなら先に言っておいてくれ。俺が恥をかいたじゃないか」

「ああ、すっかり忘れてたんです。すみません」


 カレイシアさんは思わずといった感じで、がっくしと肩を落とすのだった。



   ***



 それからも順調に進み続け、私たちは無事夕暮れ時に宿場町に辿り着いた。

 他の旅人たちで賑わう中、私たちは貴族向けの宿に足を向けていた。

 他の宿と違って、かなり豪華な仕様っぽく、外観からかなり手が込められているようだった。

 流石、貴族用。

 私たちはその扉を潜り、普通に何事もなく一泊して、次の日の早朝には出発した。


「今度は夜までに辿り着けそうな宿場町がないから野宿確定だな」


 カレイシアさんは馬車に揺られ本を読みながら、そう言った。

 しかしよく馬車に揺られながら本を読めるものだ。

 私だったら絶対に酔ってる。

 てか、王都に行くとき、普通に本を読んでみようとしたら酔った。

 だから私には絶対に出来ない芸当だ。

 しかもそれに加えて会話までしようとしているのだから、器用なものだと思わず感心する。


「野宿は任せてください! 私、得意なので!」


 ふふふ、これでも前世では父がキャンプ好きで、毎年夏にはキャンプに連れて行ってもらっていた。

 野宿なんて慣れたものよ!

 それに前回王都に来るときや、ラマエル断崖都市に行くときなんかにも体験してるしね!

 しかしカレイシアさんはわざわざ本から顔を上げて、疑いの目をこちらに向けてきて言った。


「ホントか? 全然得意そうには見えないんだが」


 なにおう!

 こりゃあ、得意なところを見せつけるしかないよね!

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