第24話 同行者が増えました

 私はカレイシアさんに今まで起こった出来事を話していく。

 全て聞き終わった彼は、ムスッとした表情で言った。


「クソ、なんでそんな面白そうなことが起こっている間に、俺は魔物狩りなんかに行かなきゃいけなかったんだ……」

「それは仕方ないですよね。魔物が氾濫していたんですもんね?」

「まあ、そうなんだが。それでもあの魔法使いギルドの爺たちが驚いている顔を見てみたかったぜ……」


 悔しがるのそこなんだ。

 カレイシアさんは立ち上がり、コーヒーを淹れるためにお湯を沸かし始める。

 私は先ほどエレクトリア王女殿下から貰った魔石をしげしげと眺め始めた。

 表面を人差し指で撫でてみたり、自分の鼻に詰めてみたり、勇気を出してチロッと舐めてみたりもする。


「……何やってるの?」


 そんな私の奇行を見て、アーシャさんが呆れた目を向けてくる。

 私はキリッとした顔で言った。


「まずは仲良くなろうかと」

「私にはレイラが何を言っているのか、さっぱり理解できないんだけど」

「まあまあ……真剣なことを言えば、私の魔力と何か反応が起きたりしないかなって思いまして」

「あー、なるほど……。って、いや、それにしたって意味不明だったけどね」


 一瞬、私の言葉に納得しかけたアーシャさんだったが、すぐに思い直して、違う違うと言い聞かせるように首を横に振った。


「魔石ってのは魔力が結晶化したものだが、魔力のような力は持っていないはずだ。少なくとも今のところは発見されていない」


 お湯を沸かし終え、コーヒーを淹れながらカレイシアさんは言った。

 そうなんだ……。

 なんだ、ちょっとがっかり。


 でもなんで魔力が結晶化するんだろうか?

 そして結晶化しないときとするときの違いって何があるんだろうか?


 う~む、分からない。

 全くもって情報が少なすぎる。

 そこら辺の記録が書かれた書物とかが王城の書物庫にあれば良いんだけど。

 多分ない気もするけどね。


「そういえば、レイラはもう明日には領地に帰るの?」


 ふと思い出したようにアーシャさんが尋ねてくる。

 私は頷いて答えた。


「はい。明日の朝一番で帰ろうかなと」

「それじゃあ、カレイシアも連れていったら?」

「え? カレイシアさんですか?」


 私がキョトンと首を傾げるとアーシャさんは頷いた。


「そうそう。カレイシアも遠征で疲れてるだろうからね。休息も必要かなと思ったわけだよ。ふふ〜ん、出来る上司でしょ?」

「いや、俺たちはこの場では同僚だぞ? 同じ筆頭宮廷魔法使いなんだからな」

「うっ……じゃ、じゃあ、王女として、私は部下の子爵たるカレイシアの身を案じているわけだよ!」


 カレイシアさんに冷静に突っ込まれ、アーシャさんは狼狽えて苦し紛れにそう言った。

 カレイシアさんは呆れたようにため息をついた後、頷いて言った。


「まあ……休息を貰えるのは吝かではないな。遠慮なくレイラについて行くとしよう」

「おおー、それは楽しくなりそうですね!」

「……本当にそう思ってるのか? 俺と一緒でも楽しくないだろ」

「そんなことないですよ! 自分を卑下しすぎです!」

「客観的事実を述べたまでだ。卑下しているつもりはない」


 それが卑下してることになるんだと思うんだけどなぁ……。

 まあ、私が褒めすぎても嘘くさくなるだけか。


「それじゃあ私はカレイシアの分の仕事もしなきゃいけないから! ちょっと仕事に行ってきまーす!」


 そう言ってアーシャさんは慌ただしく部屋を出て行った。

 その背中を見送って、その後カレイシアさんがポツリと話しかけてきた。


「なあ、レイラ」

「どうしました?」

「おそらくだが、アライアスは心配なんだ、お前のことが」

「私ですか?」

「ああ。ここ最近、やけに魔物の数が多いし、強くなってきている」


 そうなんだ。

 だから私を心配してカレイシアさんを同行させてくれると言ってくれたんだ。

 仕事をサボりたいと嘘をついてまで。

 ただ、私のメイドも元A級冒険者だ。

 既に現役は引退して、冒険者ライセンスも剥奪されているみたいだが、それでも強いことには変わりない。

 おそらくリーチェ一人でも問題はないはずだが、アーシャさんやカレイシアさんの好意を無駄にするわけにもいかないよね。


「後で感謝を伝えないとですね。後カレイシアさんにも。ありがとうございます」

「俺に感謝なんていい。アライアスに言われただけだからな。それにアライアスに感謝を伝えるのもやめておいた方が良いぞ。アイツ、おそらく死ぬほど恥ずかしがるからな」


 うん、ちょっと思ったんだけど、カレイシアさんって案外ツンデレ気質あるよね?

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