第16話 完璧な演出ができました!

 壇上の上に立った。

 かなり観客がいる。

 立食パーティーのように、みなワインやら食事やらを摘まみながらこちらを見ている。

 その前に長いテーブルが置かれ、そこには以前見た魔法使いギルドの爺さんもいた。

 魔法使いギルドの人はみな似たような格好をしているのだろう。

 紺色のローブを着ている人たちは、みな一様に馬鹿にしたような目をこちらを向けていた。


 注目を集め、一瞬で喉が干からびる。

 ギルドの人たちの馬鹿にするような目が、私を射貫く。

 足が震えそうになった。

 その時、アーシャさんが私の手を取った。


『失敗しても大丈夫だから』


 記憶が、先ほどアーシャさんに言って貰った言葉が脳裏をよぎる。

 私は、喋り出した。


「えー、これから私、レイラ・フォン・アルシュバインとアライアス王女殿下の、共同研究の成果発表を行いたいと思います」


 話せた。

 話し始められた。


 それからはスムーズに言葉が出てきた。

 滞りなく口が動いてくれた。


「私たちは光と闇についての研究を行いました」


 その語り出しに、更に注目を集める。

 今まで興味なさそうに食事を頬張っていた人たちも、手を止めてこちらを向いた。

 おそらく光魔法や闇魔法についての研究だと思ったのだろう。

 しかし、光魔法や闇魔法が魔導具を通してでしか使えないことは周知の事実だ。

 常識と言ってもいい。

 そんな魔法を研究するのはどんな物好きかと、そんな視線だった。


 だが、私が話し始めたのは全く違う事柄だった。


「光というのはそもそも何なんでしょうか? 一説では、闇の中に突然生まれたもので、私たちを形作っているものだとされています」


 数人、興味を持ち始めたようだ。

 普通とは何か違うぞ、と。

 しかし大抵の人は失望したようにワインを飲み始めたり、料理に手をつけ始めたりしている。

 魔法使いギルドの老人たちも退屈そうに肘を机についていた。


 それでも、私は喋り続ける。


「私は一つの仮説を立てました。光とは波なのではないかと。そしてその波形の大きさによって、色が変わっているに過ぎないのではないかと。物が見えるのは、その光が反射して瞳に入ってくるから見えているだけなのではないかと、そう考えました」


 一息つく。

 これで仕込みは終了だ。

 これでみんなの中に、を植え込つけられたはずだ。

 私の言葉が終わると同時に、アーシャさんが大広間の上方に風魔法を使ってシャンデリアの灯りを消した。


「なっ、何だ!?」

「一体何が起こっている!?」


 混乱が生じた。

 私はその中で、使


 ぱあっと光源が生まれる。

 小さな光源で、全部を見通せるくらいの明るさはない。

 しかし暗闇の中で、その光源は非常に目立っていた。


「何だあれは……」

「もしかして……いや、でも……」

「あれが光魔法だというのか……」


 呆然とした呟きが聞こえ始める。

 喧噪は止んだ。

 そのタイミングで、私は声を張り上げる。


「皆さん、イメージして! 光は波だと信じて! 光は現実のものだと信じて、光魔法を使ってみて!」


 誰かが恐る恐る光魔法を行使した。

 光源が出来た。

 それを見た他の誰かが、また光魔法を使った。

 それを見た他の人が、それを見た他の人が——。


 広間は明かりに包まれた。


「これが光魔法……っ! 絶対に使えないとされた光魔法なのか!?」

「なんで、どうしていきなり使えるようになったんだ!?」

「あの少女が何かやったというのか……!?」

「さっき話していた研究内容がこの結果をもたした……?」

「もしかして、認識を変えれば魔法が使えるようになるというのか……?」


 ざわめきが広まっていく。

 それからさらに派生して、宮廷魔法使いの人たちが方々で呟き出す。


「あの女の子、さてはこの間、王女殿下から手伝えと言われたあの仮説を考えた少女か?」

「ああ、おそらくそうだろう。隣に王女殿下が居るのがいい証拠だ」


 そんな会話が繰り広げられる中、アーシャさんが一歩前に出て声を張り上げた。


「これだけで私たちの研究結果は終わりではない! これより、魔法の才能の見分け方をみなに伝授して差し上げようと思う!」


 さて、後はアーシャさんにバトンを渡して、私の役目はもう終わりだ。

 はぁあああ、緊張したぁ……。

 でも、みんな驚いてくれていたみたいで良かった。

 あの光魔法で浮かんだ驚きの表情がたくさん見られただけで、今日やって良かったと思った。

 この台本も一週間かけて練りに練った台本だからね。

 本当に成功して良かった。


 それからアーシャさんが手相と魔法の才能の関係性の話をして、私たちの番は終わった。

 出番を終えた頃には、大喝采が起こっていた。

 口笛まで吹き出す人もいた。

 そんな中、私たちを馬鹿にしてきていた魔法使いギルドの爺さんたちが、呆けたように口をあんぐりと開けていたのが、これまた痛快だったね。

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