第14話 吟遊詩人の詩
「煮詰まったら外に出ると良いよ」
昼食後、どうして私だけが光魔法を使えたのかについて悩みまくっていると、アーシャさんがそう声を掛けてきた。
あの後再び光魔法と闇魔法を使ってみたが、どちらも普通に使うことが出来た。
ってことはやっぱり、異世界人が普通に光魔法が使えないという原因がどこかにあるはずだった。
しかしそれが思いつかずに苦しんでいたので、アーシャさんが見かねてアドバイスをくれたというわけだ。
「確かに気分転換は大事ですよね」
「そうそう。街に行けば色々な情報に溢れているからね。こういうのって何がキッカケになるか分からないし、出来るだけたくさんの情報に触れた方が良いんだよね」
一理ある。
と言うわけで私は王城の研究室を飛び出し、市井に来ていた。
プラプラと当てもなく歩く。
大通り沿いにはレンガ状の建物が建ち並び、道の脇にはたくさんの露店が出て、大きな道を無数の馬車や人が行き交ってとても賑やかだった。
この王都は城に向かって行くにつれて丘になっており、坂道の多い街だった。
特に路地に入ると入り組み始め、アップダウンも激しくなり、歩いているだけで疲れてくる。
小一時間ほど歩き、私は少し高台になっているところの広間にあるベンチに腰を掛けて休憩した。
街が一望できる。
確かに研究室の窓からも街は一望できるが、窓から見る限られた景色と百八十度以上も見渡せる景色とじゃ全く違って見えた。
「ふう……やっぱり思いつかないかぁ……」
しかし、考え込みながら歩いていたせいで、ついつい考える方に夢中になって周りの景色が見えていなかった気もする。
休憩を取ったらもう一度、一時間ほど歩いてみようかなと思っていたところ、近くでポロンポロンと弦楽器を奏でる音が聞こえ始めた。
そちらの方を見てみると、小さな子供たちが緑色の民族衣装を着た男の人たちを囲み、楽しそうに囃し立てていた。
ちょっと興味が湧いて近づいてみると、彼はどうやら旅の吟遊詩人みたいだった。
「世界は最初、闇に覆われていました」
そんな導入から始まる神話だ。
ポロンポロンと奏でられる弦楽器に合わせて吟遊詩人は物語を歌っていく。
「闇から光が生まれました。白かった光はやがて様々な色に分かれていきました。土が生まれ、木々が生まれ、動物が生まれ、最後に人が生まれました。その中で、光に浸蝕されていく闇は思いました。このままにしてはおけぬと。闇は夜を作り、魔物を生み出しました」
なかなか面白い物語だ。
異世界はまだ文明が進んでいないから、光とか闇ってそういう解釈になるんだ……って、ん? 光と闇?
私は一つひらめきを得た。
そうだ。
私が地球から来たことによって、この世界の他の人と大きく異なっている点は、認識だ。
私は光が電磁波である物質だと知っている。
つまり、概念を理解しているのだ。
しかしこの世界の人にとって光や闇は神話的なものであり、捉え方が大分違う。
おそらく、光や闇をただの現象だと捉えているかどうか、というのが魔法として行使できるかの差なのかもしれない。
どこまで詳細に理解する必要があるのかは分からないが、おそらくそこまで詳しくある必要はない気もする。
そうでなければ、この異世界の人たちが火や水を生み出せるはずがないからだ。
つまり、光や闇、そして空間などをどう捉えるかが、魔法として発動できるかの鍵になるのではないか。
勢いよく立ち上がった。
そして王城まで全力で走る。
塔を昇る階段も一段飛ばしで昇り、研究室の扉を勢いよく開けた。
そんな慌てる私を見て、アーシャさんは一言。
「何か発見したみたいだね」
私はその言葉にぜえぜえと荒い息を吐きながら頷くのだった。
***
それから私はアーシャさんに光や闇に関する考え方を少しずつ教えた。
まずは光や闇が神話のものではなく、現実の物理法則に基づいた現象であることを説明する。
「……う〜ん、まだ出来ないね」
「そうですね。それじゃあもう少しちゃんと説明します」
どの段階でアーシャさんが魔法を使えるようになるのかの検証も兼ねている。
だから少しずつ教えていっているのだ。
そして、光が電磁波であること、そして物質に反射し続けていることなどを教えて、ようやくアーシャさんも光魔法を使えるようになった。
「おおぉおおおおぉおお! 凄い、私でも光魔法を使えるなんて! 流石、レイラだよ! 今、すっごい感激してる! いや、本当に!」
ピョンピョンと飛び跳ね、私を抱き抱えながらアーシャさんはそう言った。
喜んで貰えて良かった。
それに、ようやく原因が分かって凄くスッキリとした気分だ。
「まだここに来て一週間ほどなのにこんな凄い研究結果を二つも出しちゃうなんてね! うんうん、まさに神童ってやつなんだろうね!」
ふへ、ふへへ。
神童だって。
嬉しいなぁ。
「でも、なんでレイラはそんな、光が波だってこと知ってるの?」
「……あっ、そ、それは」
ど、どうしよう……。
なんて説明したものか……。
ふとしたアーシャさんの問いかけに、私は思わず固まってしまった。
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