第13話 古代魔法はじめました
「それじゃあ、また一ヶ月後くらいに様子を見に来るけど、きちんと生活しておくのよ? 研究に没頭してご飯を抜くとかは駄目だからね? 後、ちゃんとアライアス王女殿下の言うことは聞くのよ?」
朝、母親らしい心配の言葉を残して母は領地へ帰っていった。
これで一人だ、ひゃっほい!
前世も高校生でずっと実家だったから、こういう一人暮らしには憧れてたんだよね!
うひょー、好きに研究が出来るよー!
「……レイラ様、浮かれているところ悪いのですが、エレナ様からちゃんと見ておくよう仰せつかっておりますので、手加減はしませんよ? というわけで、レイラ様、ちゃんとお風呂に入ってください! 昨日、エレナ様を誤魔化してお風呂に入らず研究していたことくらい、分かってるんですからね!」
私がはしゃいでいたら、リーチェに冷たくそう言われた。
げっ……バレてた。
まあ一日くらい入らなくてもいいかと思ってしまったのだ。
別に会うのなんてアーシャさんとカレイシアさんくらいなんだから、ちょっとの匂いくらい気にしないだろうと思ってしまった私を誰が責められよう。
……うん、私の女子力が低いことくらい分かってるよ。
そんな女子力なんてクソ食らえ、だよ!
女の子らしさとか気にするの、面倒くさいんじゃ!
そんな意見を主張したところで、もちろん通らず、私は風呂場に放り込まれてリーチェに身体の隅々まで洗われる。
あ〜、心が浄化されていくんじゃ〜。
そしてピカピカになった新生の私ことレイラは意気揚々と研究室に向かう。
最近では王城でもそれなりに顔が知れ渡っていて、すれ違う度にコッソリ飴玉とかくれたりする。
子供じゃないんだから、ちゅぱ、そんなんじゃ喜ばないよ、ちゅぱ!
「あ、レイラ、おはよう」
研究所に入ると、アーシャさんが挨拶をしてくれる。
いつもならカレイシアさんが窓際の机で書類を整理しているはずなのだが……。
「あれ? カレイシアさんは?」
「ああ、私の姉のエーリャ……エレクトリア第一王女に引っ張られて前線に向かったよ」
「前線?」
「知らない? 最近〈魔の森〉の魔物が活発になってて、結構討伐に苦戦しているみたいなの。だから近衛騎士団の団長を務める私の姉が、筆頭宮廷魔法使いのカレイシアを引っ張っていったってわけなんだよねぇ」
アーシャさんの言葉に私は驚きの声を上げる。
「え!? エレクトリア王女殿下って近衛騎士団の団長さんだったんですか!?」
「そうだよ? あれでも隣国も含めて勝てる人なんていないんじゃないかってくらい強いんだから」
へぇ……そうなんだ。
意外だ。
どちらかと言えば理知的で魔法使いっぽい見た目だったのに。
お転婆のアーシャさんが魔法使いで、知的なお姉さんが騎士……。
これは、ギャップと言えばいいのだろうか。
「それよりも、〈魔の森〉の魔物って、大丈夫なんですか?」
「うん、問題ないよ。定期的にあるんだよね、こういうことって。前回は確か三年前とかじゃなかったかな」
「母が今朝、領地に向かって行ったんですけど……」
「ああ、アルシュバイン領でしょ? だったら反対側だから大丈夫だよ」
そうか、それなら良かった。
ホッと胸を撫で下ろす。
「で、今日は昨日の、光魔法と闇魔法の続きをするのかな?」
「いえ、ちょっと家でも考えたんですが、煮詰まってるので、今日はこの間借りてきた古代魔法の本でも読もうかなって」
「古代魔法ねぇ……素敵だと思うけど、本当にお伽話だよ? 流石にレイラでもこれは無理じゃないかなぁ……」
そうなんだろうか?
確かにまだ内容を知らないから何とも言えないけど。
とにかく興味を引かれるのは事実だし、こう言った何気ないところから別のヒントを得たりすることもあるのだ。
「まずは読んでみてからですね」
「そうね。読み終わったら感想を教えてちょうだい」
「分かりました」
そして私は神父さんから借りてきた古代魔法入門を読み始めた。
なるほど、これは厳しそうだと思わざるを得なかった。
***
「どうだった?」
二時間ほど。
私は古代魔法入門を読み終えていた。
読み終えた私にアーシャさんが尋ねてくる。
「う〜ん、やっぱりアーシャさんの言うとおり、結構厳しそうかなと思いました」
人を蘇らせる魔法、空を飛ぶ魔法、一瞬で長距離を移動する魔法。
どれも出来れば素晴らしいと思うが、やはり発想が飛躍しすぎている気もする。
「ね、やっぱりそうでしょ?」
「そうですね。魔法といえど、出来ることと出来ないことがありますものね」
同意を求めてくるアーシャさんに私は頷いた。
人を蘇らせるのはもちろん、空を飛ぶのだってコントロールとか気圧とか空気とか色々な弊害が生まれるし、一瞬で長距離を移動するのだって移動した先に物体があったらとか、考えることが多すぎる。
現実的ではない。
が、私はあえてアーシャさんにこう言った。
「でも。ここで考えることを放棄してしまってはいけないと思うんです」
「と言うと?」
「出来ない、不可能だ、そう言うのは簡単です。そして、本当にそれは不可能なのかもしれない。でも、出来るかもしれないと信じて考え続けること、思考し続けることが、研究者の本分なんじゃないかなって。いや、私はまだ、研究者と名乗っていいレベルじゃないのかもしれないですけど。でも、そう思うんです。それに——」
「それに?」
そう首を傾げるアーシャさんに、私はニッと笑ってこう言うのだった。
「不可能を可能に出来たときって、一番気持ちいいと思いませんか?」
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