第12話 あれ、なんで出来るの?

 アーシャさんに手伝ってもらい、論文を完成させた。

 早速来週の定例魔法会議でアーシャさんが代わりに発表してくれるそうだ。

 代わりに発表してくれるのは、私だと幼すぎて説得力に欠けるからと言う理由だった。

 しかし、一応アーシャさんは共同研究者として手伝っただけ、というスタンスを取ってくれるそう。

 それでも手取りを少しでも横取りしてしまうみたいで申し訳ないと謝ってくれた。

 私は、アーシャさんも手伝ってくれたのは事実だし、カレイシアさんも含めて二人がいないと成り立たない研究だったから、私は問題ないと返した。


 ちなみに定例魔法会議とは、王宮魔法使いと魔法使いギルド双方のトップがそれぞれの研究成果とか研究経過とかを発表する会だ。

 最近では王宮の魔法使いたちは主だった研究成果を上げられず、ギルドに下に見られているそうだ。

 だからこそ、教会に行く途中にあった爺さんにいびられる、みたいなことが起こる事態となってしまっていた。


 そして、来週の定例会が行われる前までに、私はもっと研究を進めたいと考えていた。

 後回しにしていた魔力量測定器を考えるか、または光魔法や闇魔法を使えるように研究するか。

 考えた結果、自分の好奇心に従い、光魔法や闇魔法の研究をすることにした。


 手相の横線が陰と陽。

 手相の縦線が定形と無定形。


 光と闇をこれに当て嵌めて考えてみると、光が陽と無定形、闇が陰と無定形ってことになるだろう。

 しかし陽と無定形は火属性だし、陰と無定形は風属性となっている。


 ……火属性を極めると光属性になる?

 しかし極めるって何だろう?

 少し魔法の使い方の基礎を振り返りながら考えてみるとする。


 魔法は脳内でイメージを固め、体内にある魔力がそれに反応して、手のひらの手相から放出されるという手順だ。

 体内の魔力は血液内の物質に付与されており、手のひらの手相は自由形の魔法陣となっている。

 前者はまだ仮説でしかないが、後者は先ほど確定した。

 ともかく、これらの基礎を一つ一つ丁寧にやりながら光魔法を使ってみよう。


 ちなみに私は他の人に比べて、陰と陽、定形と無定形の全ての皺が長かった。

 その中でも陽と定形が長いみたいだったので、光魔法を試してみようと思ったわけだ。


 それで、光、光っと。

 ええと確か、光は波形であり、いわゆる電磁波というものだったはず。

 で、可視光というものがあり、波長の長さによって色が変わって、瞳で捉えられる範囲も限られてるんだったっけな。


 うん、イメージは固まってきた。

 とりあえず、全体に広がるような白色の光源を作ってみよう。


 私はイメージを確立させ魔法を発動させる。

 はたして、光魔法は使えるのか……。


「って、おおお? あれ? 普通に出来てるぞ?」


 目の前には白い光を放つ球体が浮かんでいた。


 んー?

 これってもしかしなくても出来てるよね?

 何で? どういうこと?


 私の脳内は混乱し、静かにパニック状態に陥っていると、先ほどからずっと上機嫌なアーシャさんが鼻歌を歌いながら研究所に帰ってきた。

 そして——


「ふんふん〜、ふふふ〜ん、って、え? ん? あれ? え、ええ、えぇええええええええええええええええええええぇええええ!」


 私の作った光源を見て大声で叫んだ。

 瞳は完全に驚き見開かれている。

 今にも眼球が飛び出そうな感じだ。


「そ、それって光魔法だよね!? 何で、どうして出来てるの!?」

「さ、さあ……?」

「凄い、凄いじゃん! またしても革命だよ! 大革命だよ! どうやったのそれ!?」

「いや、普通にやっただけで……特別なことなんて一つもしてないんです。だから、他の人が出来るようになるのかが分からなくて……。再現性がないんじゃ、研究とは言えないかなぁって」

「あー、確かにそうだよね。ちょっと私も試しにやってみるから、やり方を教えてくれない? ね、お願い」


 そう言われて、私は光属性と闇属性がそれぞれ陽と陰の無定形であると考察した上で、基礎を振り返りながら一つ一つを丁寧に熟していっただけだと伝えた。


「やぁっ! ふぅっ! はぁっ! ……やっぱり私じゃあ出来ないかぁ……」


 やり方を教えてみても、アーシャさんは出来なかったみたいだ。

 何が違うんだろう?

 私が出来てアーシャさんが出来ないってことは、何かしら違いがあるんだろうけど、生まれも育ちも違いすぎて何処をピックアップすれば良いかも分からない。

 強いて大きな相違点を挙げるとするならば、私が異世界人であるということだ。

 これが異世界転生のチート特典でしたとかだった場合、思わず神様をぶん殴りそうになるだろうが、それ以外にも考えにくいんだよねぇ……。


 ううっ! なんだ、何が違うんだぁ!


 しかし結局、その日は煮詰まってしまい、良いアイデアが出ずにトボトボと帰るのだった。



   ***



「ただいまぁ」

「お帰りなさい、レイラ様」

「にゃぁ」


 帰るとリーチェとアルルがお出迎えしてくれた。

 あっ、そういえば明日は母が領地に帰ってしまうんだった。

 つまり、明日から私はこの屋敷でリーチェとアルルと三人の……いや、二人と一匹の生活になる。

 王都にある別邸のような屋敷だが、相当大きいので二人と一匹だけだとなかなか寂しくなりそうだった。

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