第9話 気づきました
三、四時間ほど掛けて手形を押された紙を、レポートに書かれた得意属性別に分類する。
「ふぅ……これで全部かな」
「そうですね。手伝っていただきありがとうございました」
「いいや、私たちも早く結果が知りたいから。それくらいはお安い御用だよ」
私がアーシャさんに頭を下げると、彼女はなんてことないと言うように右手をヒラヒラと振った。
それらの資料を並べつつ、私は類似点を探っていくつもりだ。
ええと、こっちが火属性が得意な人で、こっちが水属性が得意な人……。
う〜ん、やっぱりぱっと見では分からないや。
一つ一つの皺の線に注目して、共通項を洗っていく必要がありそうだね。
まずは分かりやすい、太く刻まれた横線二本に注目して探っていく。
しかし横線は二本しかないので、単純に四属性の分類を出来るわけでもないだろう。
火属性が得意な人の中にも、上の横線が長い人や短い人、逆に下の線の長さもバラバラだ。
水属性、土属性、風属性も、もちろんバラバラで統一性がない。
横線が違うらしいというのが分かったので、今度は縦線の太い二本を確認してみる。
結果はこちらもバラバラだった。
得意属性は手相に関係しないのだろうか。
それ以外の薄い線も確認してみたが、やっぱり関連性は見当たらなかった。
おそらく考え始めて数時間が経ったのだろう。
アーシャさんが私に声を掛けてきた。
「そろそろお昼ご飯の時間だけど、まだ続ける?」
「う〜ん、そうですね、一旦休憩にします」
私がそう言うと、アーシャさんは机の上にある小さな鈴を手に取って鳴らした。
チリンチリンと音が鳴るかと思ったが、全く音がしない。
そのことに私が不思議に思っていると、アーシャさんが言った。
「ああ、これは私が作った魔導具でね、これを鳴らすと直接厨房に届くようになってるんだ」
「へぇ! 凄いですね! どんな仕組みなんですか?」
「う〜ん、説明すると長くなるけど、聞く?」
「聞きたいです!」
「そう。じゃあ、お昼ご飯を食べながら説明しようか。まずはテーブルの上を片付けないとね」
ソファ前のローテーブルが、手相の書類で一杯になっていた。
確かに。
これではご飯が食べられない。
私たちは慌てて書類を片付けて、綺麗になった頃にようやく厨房からメイドさんが食事を運んできてくれたのだった。
***
私は持ってきてくれたシチューにパンを浸けながらアーシャさんの話を聞いていた。
「この魔導具はね、伝達魔法を使ってるんだよ」
「伝達魔法ですか?」
「そう。基本、魔法は四大属性しかないんだけど、魔導具には伝達魔法、光魔法、闇魔法なんかもある」
「へぇ……それは魔導具だけってことですか?」
「そうだね。今のところは、それらの属性を魔法として行使できたって話は聞かないね」
「なるほど……。それが魔法で使えたら便利そうなのに」
「でしょう? でも、それを出来た人はいない。何故出来ないのかを紐解ければ、それこそ国から表彰されるレベルだね」
「そんなですか」
でも確かに、伝達魔法とか使えるようになれれば、便利どころじゃないんだろう。
あの鈴の魔導具を使わなくても、音を遠くに送ることが出来るようになるってことだからだ。
私はシチューにヒタヒタになったパンを頬張って、もぐもぐと食べた後、ゴックンしてもう一度質問した。
「それで、魔導具の作り方ってどんな感じなんですか?」
「それこそ、円形魔法陣とか、自由形の魔法陣を使うことが多いね。伝達魔法とかは完全に自由形だ」
「円形魔法陣では伝達魔法を使えないんですかね?」
「使えないねぇ……。これも何故なのかはまだ判明してないんだ。理論上は円形魔法陣でも使えるはずなんだけど」
円形魔法陣は基本、円の数と大きさ、そしてその周囲に書く
それに対して、自由形の魔法陣はルーツがとても重要になってくるのだ。
例えば鳥形の魔法陣を描けば、空を飛べる魔法陣になる。
しかしただ鳥形の絵を描けば良いってわけじゃなくて、円形魔法陣が描いてある紙に、その魔法陣の上から羽ペンで鳥の血を使って描く、とかまでする必要があった。
……って、待てよ?
私がこの手相を発想したときは、手相が自由形の魔法陣である可能性があるというところだったはず。
いつの間にか手相と属性がただ関係しているだけだと、単純化してしまっていた。
しかし元を辿れば、この手相に直接属性が関係しているわけではなく、ルーツとなる何かしらがあるのかもしれない。
それは神話なのかもしれないし、はたまたもっと別の歴史があるのかもしれない。
私はパンを頬張ったまま立ち上がった。
「あれ。急に立ち上がってどうしたの?」
「もごもごもごもご!」
「何言ってるか分からないよ」
ゴックン。
「すみません! 私、気がついちゃったんです! もしかしたらこの手相に関係する神話だったり歴史だったりがあるんじゃないかって!」
「神話や歴史ねぇ……。確かに自由形の魔法陣だったら何かしらのルーツがあるはずかも。それを知りたいのなら、教会に行ってみましょうか。神父さんなら何か知っているかもしれないし」
と言うわけで、私たちは大慌てでシチューとパンを飲み込み、街の教会に急ぐのだった。
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