第5話 第一王女殿下とあいました
王女殿下にお友達と言われて、周囲の私を見る目が変わったのを感じていた。
二つの視線は尊敬の視線に。
一つの視線は嫉妬の視線になっていた。
言わずもがな、嫉妬の視線を向けてきているのは、先ほど私に不快そうな目を向けてきていた人だった。
しかし何事もないかのようにお茶会は始まり、最近流行りの英雄譚の話から近頃のゴシップまで、楽しそうに話し始める。
しかし私はそんなものには興味が湧かないので、アルルを撫でながらぼけーっと考え事をしていた。
手相も大事だが、それと同時に魔力量を測定する器械の作り方も色々と空想を広げていた。
まだ全く理論もクソもない状況だが、あれこれと考えるのが楽しい。
そんなふうに上の空でいると――
「そもそも、最低限の作法も重んじられない人なんて人間として恥ですよね。そう思いませんか、アライアス王女殿下?」
お茶会も中盤に差し掛かった頃、突然一人の女性がそう言い出した。
そう。
私にずっと嫉妬の視線を送ってきている女性だった。
それを聞いたアライアス王女殿下は一瞬キョトンと首を傾げて、少しの間の後、ああっと手を叩いた。
「私自身、作法とか興味ないからね。良く姉とかに怒られるんだ。そのことを言ってくれてるんだよね?」
それを聞いた先ほどの女性は、顔をさぁっと青くする。
おおっ、人間の顔って、こんなに綺麗に青くなっていくことってあるんだ。
「いっ、いえ! そういうわけじゃなくて!」
「そうなの? でも私の作法が適当だってのは結構有名な話だったと思うけど」
そう小首を傾げるアライアス王女殿下。
作法のことを言い出した女性は、もうガタガタと震えだしてしまった。
完全に空気が凍っている。
そんな中、アライアス王女殿下は立ち上がった。
「何だか疲れてきちゃったみたい。私、そろそろお友達とお話しないといけないから」
「…………え?」
アライアス王女殿下はそう言って、いきなり私の手を取った。
そして引きずるように歩き出す。
私は倒れそうになりながらも、その後に続いた。
アルルは私の腕から飛び出して、母の元に駆け寄ってしまった。
そのまま彼女は王城内に戻り、廊下を歩いていく。
「あの、アライアス王女殿下……」
私が声を掛けると、彼女は立ち止まって私の方を見た。
「どうしたの?」
「さっきのって……」
「ああ、もちろん嘘だよ。私の作法は適当じゃないし、そのことが有名でもない。それに疲れてもないしね」
「やっぱり」
「あ、でも、作法に興味なくて姉に怒られまくってるのは本当だよ」
瞬間、すうっとアライアス王女殿下の後ろに一人の女性が立った。
彼女はとてもアライアス王女殿下に似ていた。
「そうね。今もまた、怒ろうと思っていたところだしね」
「げっ、お姉様」
どうやら彼女が第一王女殿下らしい。
アライアス王女殿下は露骨に嫌そうな顔をする。
しかし……アライアス王女殿下はミディアムヘアで活発そうな雰囲気だが、こちらの第一王女殿下はロングヘアで知的な感じだ。
第一王女殿下のほうがアライアス王女殿下よりも、筆頭宮廷魔法使いと言われてもおかしくない雰囲気を湛えていた。
「アライアス、またお茶会をすっぽかしたでしょう?」
「ちゃんと行ったよ」
「でも途中で抜け出してるじゃない」
「うっ……それはそうだけど……」
第一王女殿下に言われ、言葉を詰まらせるアライアス王女殿下。
そして、第一王女殿下は私の方に視線を向けると、しゃがんで視線を合わせると優しくこう言った。
「初めまして。私はこのお転婆娘の姉、エレクトリア第一王女よ」
「あ、よろしくお願いします」
「ちょっと、お姉様! 私の友達に私のイメージを下げるようなこと、言わないでよ!」
アライアス王女殿下が言うと、エレクトリア王女殿下は目を見開いた。
「……今、友達って言った?」
「うん、友達。とっても面白い発想をする子なんだよ」
とても嬉しそうな表情でそう言うアライアス王女殿下。
しかしどこか新しいオモチャを買ってもらった子供の笑みに見えるのは何でだろうか。
「そう、アライアスが友達ね……。珍しいこともあるみたいね」
「むぅ……珍しいって何さ」
「アライアス、今まで出来た友達の数を言ってみなさい」
「ええと、いち……って、いや、この子は友達じゃないか……じゃあ、ええと……うん、いないね」
平然とそう言ったアライアス王女殿下にエレクトリア王女殿下は呆れたようにため息をついた。
「やっぱりいないじゃない」
「いや、今日からこの子が私の友達だから! もういないなんて言わせない!」
「で? そのお友達の名前は?」
「ええと……その……」
エレクトリア王女殿下に言われて、アライアス王女殿下は狼狽えたように視線を泳がせる。
困ってしまったアライアス王女殿下の耳元に背伸びして口を寄せて教えてあげた。
「レイラ、レイラ・フォン・アルシュバインです」
「そっ、そう! レイラ、私の友達の名前はレイラよ!」
「……良かったわね、お友達が優しくて」
それからエレクトリア王女殿下は私の方にもう一度向き直ってこう言った。
「こんな妹ですけど、仲良くしてやってください。お願いね?」
「はい、もちろんです」
今世での初めての友達だからね。
仲良くするのは当然だね。
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