第3話 てづまりです
「にゃぁ」
「はははっー、アルルよ、こいつが欲しいかー」
「にゃぁ!」
どうやらアルルは私の作るミネラルウォーターにハマってしまったらしい。
最近、よく強請ってくるようになった。
今もこうして私の足に顔をこすりつけながら寄越せ寄越せと主張してくる。
「仕方がないなぁ。ほら、お待ちかねのミネラルウォーターだよ!」
そう言って私はミネラルウォーターの入ったお盆をアルルの前に置いた。
もの凄い勢いで飲み始めるアルル。
ちなみに、基本猫に人間用のミネラルウォーターは向いてないので、アルル用に調整したものを作っている。
アルルはとてもお気に召したようで一気に飲み干すと、満足げに陽の当たる場所まで行き昼寝を始めてしまった。
「むぅ……自由人め。いや、人じゃないから自由猫かな?」
そんなことを口ずさみながら、私は机に向かう。
あれから魔法を使ってみて、いくつか分かったことがある。
一つは、右手の手のひらを翳すか、左手の手のひらを翳すかで、使いやすい魔法の特性が少し変わったこと。
もう一つは、やはり体内に魔力を溜めておく器官が存在するらしいということ。
この間、夢中になって色々魔法を使っていたら、お腹の左側が痛みを帯びてきた。
最初は腹痛かと思ったが、次の日、また魔法を使い過ぎたら同じところが痛み始めた。
どうやら魔力を使い過ぎると、その器官(仮称:魔力胆)が疲弊して痛みを生じるらしかった。
ってことは、食事か空気かに魔力が含まれているということになる。
どちらから魔力の元(仮称:魔素)を取り込んでいるのかは分からない。
ので、一週間断食をしてみた。
結果、腹は減ったが魔力はちゃんと回復していた。
つまり! 空気に魔素が含まれていて、呼吸とともに取り込んでいる可能性が高いということだ!
どうだ、凄い発見でしょう!
思わずドヤ顔したくなるレベルだ。
これは愛読している魔法教本にも書かれていなかったから、おそらく私が初めて発見したのだろう。
というわけで、今の私の目的は二つだった。
右手と左手で魔法の使いやすさの違いが出る理由を探ること。
そして魔力量を計る器械を作り出すこと、の二つだ。
まずは手のひらの違いを探るところから始めよう。
ジッと、手のひらを眺める。
んー、違い、違い。
何が違うのだろう。
ぱっと見だと、手相がちょっと違うくらいか。
手相なんて、人の運勢を見るときにくらいにしか使われない。
しかし手相が魔法に関係してくるとは……ん、待てよ。
私は慌てて魔法教本を開き、もの凄い勢いでページをめくり始めた。
「あった、ここだここ」
私が開いたのは〈魔法陣〉の書かれたページ。
オーソドックスな円形魔法陣から、自由形の魔法陣まで様々な例が書かれていた。
円形魔法陣はその名の通り、円を重ねて描き、その間に呪文を描くといったものだ。
自由形の魔法陣は、円だけではなく、例えば人の顔の線画というような自由に描かれた線を魔法陣として機能させるもののことだ。
この自由形の魔法陣は、形自体にルーツやらシンボルやらがあれば、それにちなんだ魔法陣として機能する。
手相、そして自由形の魔法陣……。
手相にはそれぞれの皺の線に意味があるというものだ。
つまり、手のひらを手相として考えれば、それはルーツとなり自由形の魔法陣となり得るのでは?
私は自分の手のひらの手相を紙に書き写し、それを持って中庭へ。
そして水、火、土、風の四大元素の魔法を使ってみながら検証してみる。
しかし……
「う〜む、発想的には良い感じだと思うんだけど、参考資料が少なすぎて何が何だかさっぱりだぁ……」
そりゃそうだ。
手相の線なんて数あるわけだし、どれがどの属性に対応しているとか、どんな意味を持っているとかってことを、たったの二パターンから割り出すことなんて不可能だろう。
これは一旦保留かなぁ……。
じゃあ次は魔力量を計る器械を作ってみたいんだが、これもまた〈ミスリル〉が必要だ。
完全に手詰まりだった。
どうしたものかと悩み初めて、無為な数週間を過ごした。
そんな時、母親から呼び出されてこんなことを言われた。
「もうレイラも十歳だから、そろそろお茶会に参加しないとね。というわけで、来週、アライアス第二王女殿下の開催されるお茶会に参加しましょう。……あ、そうそう、アライアス第二王女殿下は筆頭宮廷魔法使いの称号も持ってて、とっても偉い人だから、失礼のないようにね」
なぬ。
お、お茶会、だと……。
とうとうこの日が来てしまったか……。
礼儀作法は習ってないけど、何とか誤魔化さなきゃ。
しかし筆頭宮廷魔法使いかぁ。
私はお茶よりも断然そっちのほうが興味あるよ!
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