第2話 はじめての魔法

 う〜ん、魔力ってのは酸素と同じような考え方をすればいいのだろうか?

 つまり、空気中に魔素(仮称)のようなものがあって、それを呼吸とともに体内に取り込んでいる。

 そして取り込んだそれを溜め込んでおく器官があり、そこから血液を辿って全身に送られる?


「——ラ様、レイラ様ッ!」

「……ん? どうしたの?」

「はぁ……貴女、また話聞いてなかったですよね? ああ、伯爵家の長女だというのに、ずっとボンヤリしているし、品もないし、努力しようという気概すらもない。なんたるザマなんでしょうか!」


 金切り声を上げて責め立ててくるのはうちのメイド長。

 彼女は元子爵家の三女で、父が王宮の宝物庫の金銭を盗んだ罪でお家が取り壊しとなり、途方に暮れていたところにうちの両親がメイド長として拾い上げたみたいだった。

 だからだろうか、コンプレックスが酷く、幼い私を目の敵にしているみたいで、よくこうして揚げ足を取るように責め立ててくる。

 まあ、今のところグチグチ言われるだけだから、こうして聞き流しているわけだけど。

 こうして考え事をしている今も、金切り声を上げながら私の悪いところを一つ一つあげつらっている。


 メイド長の隣でリーチェは肩を竦めて縮こまっていた。

 どうやらリーチェはこの類いの女性が苦手らしい。

 かく言う私も、得意ってわけではないのだけれど。


 しかし、そんなことよりも、魔力についてだ。

 もし、血液のヘモグロビン的な何かに魔力が付与されているのなら、血圧を計るみたいに個人の魔力量も計れないだろうか?

 書斎にあった魔法教本によると、いまだ個人の魔力量を計る器械は作られていないらしい。

 血圧測定器もまだないみたいだし、もしかしたら私が初めて魔力測定器を作った人物になれるかもしれない。


 そう思うとめちゃくちゃワクワクする!

 だって、ワンチャン自分の名前が将来教科書に載ったりするかもしれないんだよ!

 私が何度も読み返した理系の教科書に、将来的に自分の名前が刻まれるかもしれないんだよ!

 そんなの、ワクワクしないわけないじゃん!


 というわけで、魔力測定器を作りたいんだけど……。

 まずはやはり自分で魔法を使ってみて、魔力を肌感覚で理解する必要がありそうだ。

 ちなみに今のところは魔法教本に書かれていた、魔力に反応する金属〈ミスリル〉を使って魔力測定器が作れるのではないかと踏んでいる。

 それくらいはこの世界の人だって考えただろうし、もちろん一筋縄ではいかないと思うけどね。


「……もう貴女には失望しました。そこまでやる気がないなら好きにすると良いでしょう。ただ、お茶会で恥を掻いたとしても私は責任を取りませんからね」


 って、ん?

 好きにすると良い、って?

 今、そう言った?


「それって本当!? 好きにしていいの!?」


 私が前のめりになって尋ねると、メイド長は狼狽えた様子で頷いた。


「え、ええ。好きにすると良いでしょう。先ほども言いましたが、恥を掻いたとしても、私は一切の責任を取りませんが」


 やった!

 正式にお許しが出たぞ!

 思わずガッツポーズを取る。


「リーチェ、魔法を使いに行こう!」

「って、ちょ、ちょっとレイラ様! いきなり部屋を飛び出さないでください!」


 私は解放された喜びのあまり、慌てすぎたみたいだ。

 中庭についた頃に、ようやくリーチェを置いてきていたことに気がつくのだった。



   ***



 ドキドキ、ワクワク、魔法のお時間である。

 魔法教本に書かれていたことを思い出しながら、私は魔法を行使しようとしていた。

 どうやら魔法は脳内でのイメージが重要になってくるらしく、イメージが鮮明であればあるほど良いと書いてあった。

 おそらく、脳内のイメージを直接血液内の魔力が読み取って、魔法として発動する感じなのだろう。

 まあ、血液内に魔力が含まれていたらという仮説が正しければ、の話だけど。


「さて、まずは危険性のない魔法が良いよね」


 どんな魔法が良いだろうか。

 魔法は強固なイメージがと対価としての魔力があれば、基本どんなことでも叶えられるらしい。

 まずは……水を出してみよう。

 この世界のあまり美味しくない水ではなく、前世のいろ〇すのようなミネラルウォーターをつくる。

 ええと、ミネラルウォーターの成分は……カルシウムやらマグネシウムやらを少なめにして、不純物を取り除き……うん、イメージは固まってきた!


「リーチェ、手を出して!」

「え? あ、は、はい!」

「こう、お椀型にしててね」


 そして私はお椀型になっているリーチェの手の上に水を出した。


「うわっ! 水が出てきましたよ!」

「おおっ! 実験は成功だ! リーチェ、飲んでみて!」


 私が言うと、リーチェは手から溢れそうな水を恐る恐る啜った。

 そして目を見開き、


「お、美味しい……」

「ほんと? やった、ちゃんと出来た!」


 凄い、やっぱり魔法って凄い! 面白い!

 そうはしゃぐ私に、リーチェが尋ねてきた。


「私は魔法に関しては詳しくないんですけど、いきなり成功させるのって凄いんじゃないんですか?」

「んー、どうなんだろう? そこら辺は魔法教本には書かれてなかったんだよねー」


 でもここまで簡単なら、みんなさらっと出来るようになるのではないだろうか。

 しかし、そんなことはどうでもいい!

 この魔法の仕組みをもっともっと解き明かしていかなければならないのだからね!

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