やがて古代魔法を解き明かす天才少女

AteRa

第一章:始まりの研究

第1話 転生ですって

 にゃぁ。

 ネコが鳴いた。

 その鳴き声で目が覚めた。


 ペロペロ、ペロペロ。

 ふふっ、くすぐったいよ。

 いつの間にか、猫のざらざらした舌で頬を舐められていた。


 にゃぁ。


 ……って、あれ。

 私、猫なんて飼ってたっけ?


 瞼を持ち上げる。

 ここは……?

 中世ヨーロッパ然とした美しい部屋。

 木漏れ日が差し込み、緑の豊かな香りがする。


 目の前には黒猫だ。


「わっぷ!」


 また、顔を舐められた。


 てか、この猫大きくない……?

 いや、私が縮んだのか。

 自分の身体を見下げてみる。

 4、5歳くらいの身体が目に入った。


 瞬間、ざぁっと頭の中に記憶が舞い込んできた。

 走馬灯のように、一瞬にして過ぎ去っていく。


「……なるほど、私は転生してしまったのか」


 前世、私は理系オタクだった。

 まだ高校生で、大した知識なんて、もちろんなかった。

 けど、好奇心赴くままに専門書を読み漁った。

 この世の真理を解き明かしたい。

 それが私の全ての原動力だった。


 それが今では、地球ですらない異世界の美少女……いや、美幼女に生まれ変わってしまった。


 レイラ・フォン・アルシュバイン。

 アルシュバイン伯爵家の長女だ。

 この身体はなかなかのハイスペックで、もとより神童なんて呼ばれていた少女だ。

 記憶力理解力はともに二重丸。

 運動神経も、そこらの男子に引けを取らないレベルである。


 そんな少女に転生してしまった。

 そして何より、この世界には魔法なるものがあるらしい。

 知的好奇心をくすぐられる単語だ。

 どうやって発動するんだろう。

 どんな原理で行使されるんだろう。

 気になる、すっごく気になる。


 にゃぁ。


 目の前の黒猫も同意するように鳴いた。

 こいつは私のうちで飼っている猫だ。

 名前をアルルという。


 にゃぁ。


 よしっ。

 決めた。


 せっかく異世界に転生できたんだ。

 私は好奇心の赴くままに、この世界で魔法の真理を解き明かす。

 前世では我慢を強いられてばかりだった。

 両親から文系に進むように言われて、やりたくもない文系の勉強をしていた。

 私は理系にしか興味なかったのに。


 記憶によると、今世の両親は放任主義っぽい。

 だったら好きなだけ、魔法研究をしてみよう。


 転生初日、私はそんなことを考えるのだった。



   ***



「レイラ様、レイラさまぁー!」


 私を呼ぶ声が聞こえる。

 しかし私はそれを無視することにした。


 おそらくメイドのリーチェだろう。

 十歳となった私に、貴族としての所作を叩き込むべく、探し回っているのだと思われる。

 両親は放任主義だったが、代わりにメイド長がなかなか厳しい人だった。

 礼儀作法を重んじるタイプで、やりたくもない礼の仕方とか言葉遣いとかを叩き込まれる。

 リーチェはそんなメイド長と私との間に挟まれる、可哀想な一介のメイドなのだ。


「あっ、レイラ様! また書斎で本なんか読んで! お作法の時間ですよ!」

「いやだ、やりたくない。魔法の本を読んでいる方が楽しい」


 この世界の魔法は、体内の魔力を消費して行使されるらしい。

 発動時は、必ず手のひらを相手に向ける必要があり、それ以外の部位からは魔法は発動されない。

 体内の魔力はどこから来て、どうやって体内を巡っているのか。

 そして何故、手のひらを相手に向ける必要があるのか。

 それはいまだに解明されていないみたいだった。

 まずは私は、この魔法が行使されるプロセスを解き明かしてみたかった。


 一昨日の十歳の誕生日で、ようやく私も魔法を使うことが許可された。

 だから近々、魔法を使ってみて、色々と探ってみようと思っている。


「レイラ様、レイラ様! なにぼおっとしてるんですか!」

「……ああ、ごめんごめん。考え事をしていた」

「もう……レイラ様ってよく意識がどっかに飛んでいくというか、すぐに考え事に没頭しますよね」


 それは前世からの癖だ。

 きっかけひとつあると意識がそっちに持っていかれて、人の話を聞いてないとよく言われた。

 しかし仕方ないでしょ、物事を考えるのって楽しいんだから。


「とにかく、レイラ様を連れていかないと私がメイド長に怒られてしまいますので、どうか一緒についてきてください」


 そう懇願するリーチェに私はやれやれと首を振りながら立ち上がった。


「もう、仕方ないなぁ。分かった、私が直接メイド長に抗議してあげる」

「抗議して欲しいんじゃなくて講義を受けて欲しいんですけどね……ぷぷっ」


 さぶっ。


「なんか言った?」

「いえ、なにも」


 呆れたように私が言うと、リーチェは我関せずとそっぽ向いてそう答えた。

 そんな書斎にアルルが入ってきて、一言。


「にゃぁ」

「……リーチェ、アルルを呆れさせないで」

「私が悪いんですか、そうですか」


 私の言葉に、リーチェは不満げに口を尖らせるのだった。

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