第26話 茹る気持ち


 フレンチトーストを食べ、ベッドに横たわる。全身にのしかかる倦怠感と、もう何もしたくない気持ちでいっぱいだ。

 通夜は出ないといけないし、母を説得するにはどうすればいいのか、頭を悩ませども熱に茹る思考回路は正常とは言い難い。

 むしろ、なぜ私がこんなに悩まないといけないんだと怒りが沸々と込み上げて来る。脳内で、伯母に何度も言い募り、言葉でコテンパンにすれど治らない。

 いい加減にしてくれと喚きたくなる気分だ。

 怒ったり悲しんだり、無気力になったり、冷静になったりと忙しない思考は、この数時間の間に相当なストレスをかけているだろう。

 なんでこうなったかなぁ……。

 原因はどう考えても伯母だ。こんなことなら、伯母たちを来させないようにすべきだったーーと実現不可能なもしもを思い描く。

 報われるべき人が報われず、自分勝手な人間が得をするなど、腹立たしい以外の何ものでも無い。

 今回の件に関して、私は軽い謝罪だけじゃ許さない。頭を下げて誠心誠意謝罪することを望んでいる。他の人からすると、「そんなことで?」と思われるだろうが、私たちからすれば、伯母はそれほどのことを言ったのだ。

 私に謝られても許せるものではない。母に、心の底から謝ってほしい。

 例えるなら、あの人はDVされた人に対して「DVされてても子供のためなら別れない」と言ったようなものだ。部外者の身で、特大の地雷を踏みつけ爆発させたのだから、同情の余地もない。

 分からないだろう、想像できないだろう。母が過労死するかもしれない、学校に行ってる間に倒れるかもしれないと常に恐怖していた子供の気持ちなど、わかるはずもない。

 弟も「お母さん、このままだと過労死しそうで怖い」とよく溢していたのだ。私だけの懸念ではなかった。

 子供がそう心配せざるを得ない環境であったなんて、事情を聞いても理解する思考力はないのだろう。

 そんな子供に、母が全て悪いと宣った口は、一体どれだけ人を傷つけたのだろうか。

 ああ、ああ……腸が煮え繰り返りそうだ。

 「はぁあ……疲れる」

 腹の底で茹り、ぐるぐるとした激情を吐き出すような深いため息をこぼし、ポツリと呟いた。

 ーー誰かを泣くほど後悔させたいと本気で思う日がくるなんて……。

 怒りは10秒しか持続しないなんてよく聞くが、今回は例外ではないか。はたまた、既に怒りを通り越しているのだろうか。通夜で伯母を見かけたら、どんな行動に出るだろうか……。

 ともかく、自分の新たな側面を発見し、憂鬱な気分で夕方の通夜に思いを馳せるのだった。

 

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