第22話 頼り

 

 私はなんとか会場内に戻った。

 どれだけもがいても離してくれない上、吐き気と軽い過呼吸が重なって体調はとても悪い。とにかく、誰かに伯母を引き剥がしてほしかったのだ。

 入ってきた私と伯母の状況に、弟は席を立った。号泣といってもいい程泣きながら伯母を拒絶している私を見て、かん姉とリュウは眉を顰めた。

 しかし、席を立つ様子もなく、静観している。なぜ引き離してくれないのか、私は期待を裏切られた気持ちになった。

 「離して、本当に離して!」

 「大丈夫よ、ね? おばがここに居るじゃんー」

 居るから離してほしいんだが!?

 気持ち悪さで気が狂いそうだった。好きでもない相手と強制的にハグをさせられ、ひたすらに宥められるなど、最悪な状況だ。

 弟は早足で近づいてきたが、おろおろとするばかりだ。助けてほしくて、「ハル」と何度も呼べば、伯母と私の間に腕を伸ばしてきた。

 「あの、離してもらっていいですか。逆効果だし」

 「なんでよ、泣いてるから慰めてるのよー?」

 「いやだから、泣かすことしたのは伯母さんでしょ? 原因にそんなことされても嫌なだけだし、さっきからサクラ嫌だって言ってるじゃん」

 「だから私が慰めてるのよ?」

 「……はあ、いいから離してください」

 面倒くさそうな声音でそう言った弟は、伯母をぐっと突き放し、私の腕を掴んで後ろに下がらせた。

 おお、成長してる……!

 私は弟の言動に密かに感動した。

 そうこうしていれば、かん姉が側にやってきて私の背中を摩ってくる。気が付かなかったが、過呼吸を引き起こしていたらしい。

 ひゅぅひゅうと会場に響く自分の呼吸音を聞いて、息苦しさを自覚した。

 こんな状況だ。ここにいては事態が悪化する一方だろう。子供達も早ければ一時間ほどで起きてくるだろうし、大人の醜い喧嘩など見せたくもない。

 とりあえず、頭を冷やして体調を整えるためにも一旦家に帰るべきだ。

 私はかん姉に「ごめん、一旦帰るから……十分くらいしたらばあ連れてきて……先に車乗っとく」と伝えた。

 「え、運転できる?」

 「うん。十分くらいで治るから」

 「そっか」

 かん姉は「ごめんな」と謝り、そっと側に寄ってくる伯母に冷たい声をあげる。

 「もうお母さん来ないでいいってば。私が車に連れていくから」

 「ごめんねー、サクラ」

 「ママ、もういいから放っといてやって」

 声をかけてくる叔母に、リュウがそう言って割り込む。その隙に、弟がかん姉と私を扉に促した。

 「気にせんで先行きよ。俺、ばあ連れてくるから」

 この場の最年少が一番頼りになる状況にしょっぱい思いをしながら、私はかん姉に支えられて会場を出たのだった。

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