第9話 モヤモヤ



 「え、乗せてきたの!?」

 続々と会場内へ入っていった伯母と姪っ子たちに遅れて、積まれた荷物を手に持った私を視界に入れた母は、そう言って驚愕の表情をしていた。

 「あー……いや、子供だけ……」

 「……なるほどね」

 荷物を入口脇に置きながらそう言うと、母は入ってきた面子を見て納得したように頷いた。しかし、私はモヤモヤとした気持ちのまま、声を潜めて事の顛末を伝える。

 「ほんとは、荷物だけ運ぶつもりやったんやけど、押し切られてさ……」

 「電話して伝えたのにね」

 母は私に憐憫の眼差しで「おつかれ」と言った。当の本人はじいに線香をあげる素振りを見せず、視界に入ったばあに「久しぶりー!」と大きな声で話しかけている。

 「ミヨ、早く線香立てんねよ!」

 「ああ、そうだった」

 ばあがしかめっ面でそう言うと、思い出したように伯母は線香を立てる。横向きではなく、斜めに突き刺しているのが印象的だ。ささっと終わらせて、再びばあのもとへ戻っていった。

 そんな伯母とは対照的に、最初から祭壇の前にいた姪っ子たちはどうしたらいいのかと右往左往しており、見かねた母が「サクラ、教えてやりよ」と促してきた。

 私、子供の相手苦手なんだよな……どんな風に接したらいいんだろう。

 緊張しながら「どうしたん?」と声をかけると、姪っ子の一人が答える。

 「これどうすればいいの?」

 「うーんとね、この線香をこうやって……真ん中に置かれたろうそくの火に当てて、点けるんよ。それで、灰が一杯溜まったココに横に倒して入れる」

 「やってみて」と促すと、姪っ子はぎこちない手つきで線香を立てた。その様子を見ていた子たちも同じように線香を立てる。私に問いかけてきたのは二番目の姪、シイだ。一番目の姪っ子ウイと甥っ子のルイは、ウイが補佐をしながらだった。それもそうだろう。ルイは未就学児で好奇心旺盛な年頃なのだから。

 ちらりとばあの方を見ると、大きな声で伯母が話していた。母はばあの左隣に立っており、時々耳打ちしていた。ばあは右耳の聴力がほとんどないのだ。

 「なによー、元気だがねよ。立ってるじゃん」

 「杖が無いとどうにもならんよ」

 「へえ、そうなの」

 「アンタはなにもしてないから分からんだろうけどね」

 チクリとばあがそう言った。伯母の言葉が癪に触ったのか分からないが、気になることがあったのだろう。もしくは、前々から不満を抱いていたのか。

 数年前、ばあは腰を圧迫骨折した約半年後に脳梗塞を発症し、リハビリを中断した。元々、高齢なのもあって以前のように腰の骨が完治することはなく、当初は本当に酷かったそうだ。現在は家の中や庭であれば自力で行動できるものの、外出する際には母が同行する。時々背中を支えたり、肩を掴ませて歩いているため、元気とは到底言い難い。

 なんにもわかってないな……

 私は伯母の様子に落胆した。いつだったか、母が伯母に手助けを求めたことがあったそうだが、すげなく断られたそうだ。じいは生前、体力の低下やふらつきなど諸々の理由から尿瓶を利用していた。母が丁寧に世話をしていたが、ワガママなどが増えるにつれて手が回らないと思ったのか、電話したのだそう。 しかし、理解してもらえず、じいに電話を替わらせた際に「這ってでも一人でトイレに行け」と言ったそうだ。断るのはいいのだが、じいに対する物言いに私は今でも納得がいっていない。

 そこに、伯父と従兄弟たち、一番上の従姉妹、かん姉夫婦が会場の扉を開けてゾロゾロとやってきた。私と母たちを合わせて十数人ではあるが、三人の時より圧倒的に騒がしくなる。騒がしいのがあまり得意ではない私は、これから開かれるだろう大人の飲み会に憂鬱な気持ちになる。。

 唯一の癒やしは、姪っ子たちだな……。

 「ねえねえ」と先程から私にじゃれてくるシイに優しい対応をする。懐かれた理由は分からないが、慕ってくる年下はかわいいなと思ったのだった。

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