第10話 ボナンザ(カートライト兄弟) in タホ湖

 再びサクラメントに戻ってきた。

 サクラメントも他の田舎町と同じように郊外は美しい。ポーチの芝生や樹木がきれいに整理されている。もう一度、オールドサクラメントに足を運んでみた。その名の通り、古き良き時代のサクラメントを再現した野外博物館である。古き時代のメキシコ料理を食べさせてくれるレストランがあったのでチャレンジしてみたが、味はイマイチ。


 ホテルはバスデポ周辺にしたが、安いだけあってネズミを発見したが、壁に穴が開いていたところをみると出入り自由のようだ。電話帳で塞いでおいた。古くて良いから清潔にはしておいて欲しいものだ。


 予定外にサウス・レイクタホにやって来た。

 アメリカはカナダやヨーロッパと比べても景勝地や魅力的な街が多い。放浪コースは出国前にある程度頭に入れてあるのだが、旅先で遇った旅人や民宿の女将からの情報も貴重である。だがこのサウス・レイクタホはソルトレイクシティに行くグレイハウンドバスの路線図を見ていて、その名(South Lake Tahoe) を発見したものだ。

 レイクタホがスキーで有名で、日本からもツアーが出ている事は知っていた。今はシーズンではないが何となく興味が沸いてきて、急遽立ち寄る事にしたのである。


 サウス・レイクタホへ向う途中の道にはなかなか美しい山道があり爽快であったが、レイクタホ(タホ湖)には失望した。高地にある湖なので、もっと小さくて美しい湖を期待していた。

 夕方バスデポに到着してすぐ、壁に貼られたポスターに日本で見た事のある懐かしい顔を発見して驚いた。中学高校時代に白黒テレビで毎週見ていたアメリカ西部劇『カートライト兄弟』の父親ベン・カートライト役の老俳優である。

 名は何とかグリーンだったと思う。よく見るとやはりカートライトで、彼らのかって住んでいた家や牧場が湖の北の方に有るようだ。今は観光牧場になっているらしい。この時初めて、彼らが実在人物だった事を知った。


 宿泊のイン(Inn)は外見はイマイチだが、部屋は清潔でとても良い。TV付きだったので早速点けてみると、マイケル・ランドンが映っている。もしやと思って観ていたらやはり『A little House on the Prairie (大草原の小さな家)』だった。

 陸上競技もやっており、日本人選手も健闘しているが世界陸上なのかな?


 翌朝、カートライトの観光牧場に未練を残しつつ足が無いのでバスデポに行き、リノ(Reno) 方面行きの時刻表を確認したら何と夕方の便があった。手持ちの時刻表には載ってなかったのだ。こうなれば何としてもカートライトに逢わねばと荷物はコインロッカーに預けた。

 観光案内所ではレンタバイクは4マイル先との事なので、いざとなったらヒッチハイクも念頭にレンタル屋を探しながら歩いていたら、これは夢か! あまり時を隔てる事無く小さなレンタサイクル屋さんに行き当たった。

 ”何とラッキー” と言うべきか、”あの役立たず の観光案内所め” と言うべきかとにかく嬉しかった。

(今思えば、レンタバイクは単車のみの意味だったのかな? とも思う。自分としてはどちらもOKではあるが。トライアスロンでは自転車の事をバイクと言うので紛らわしい)


 斯くして24キロ先の ”カートライト牧場” 目指して出発。サウス・レイクタホではあまり美しくはなかったが、サイクリング途中からタホ湖は俄然その美しい姿を見せ始める。その美しさに途中で2度写真を撮った。


  ”カートライト牧場” には大満足であった。来て良かった。牧場内にあるカートライトの家の周囲には西部の古い建物や農具を集めてある。トレイルコースから見たタホ湖の美しさは南岸とは別湖のようだ。


 カートライトの家のツアーがあったので中に入ると『カートライト兄弟』のTVドラマが放映されていた。

 父親ベン、長男・早撃ちアダム、次男・怪力ホス、三男・左利きジョー。そして、驚いた事に左利きジョーを演じているのは何とマイケル・ランドンではないか! 実は、昨夜もこの日もTV画面上では気づかなかったのだ。画面横に紹介されているキャストを見てやっと気づいたのだった。


 『カートライト兄弟』はオリジナルタイトルは『Bonanza(ボナンザ)』で、後ろに牧場が省略されていて『豊かな大牧場』と言う意味のようだ。左利きジョーはオリジナルでは "Little Joe" のようである。


 とても楽しくまた思わぬ大発見があったので、ついつい時間の経過を忘れ予定よりかなり遅く帰路につく。

 再び美しいタホ湖を見ながらペダルを漕ぐ。が、頑張り虚しく閉店時刻を25分経過して到着。レンタルした自転車が返ろうが返らなかろうが時刻通りに仕事を終わるのがアメリカ社会。しっかり店は閉まっていた。


 『I'm sorry so late.』


と呟きながら自転車を玄関に置いて、私はバスデポに向かった。

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