第9話 セコイア国立公園

 朝の便でマーセドに一旦戻り、そこを経由でセコイヤ国立公園に行くはずだった。

 バス時刻表にヨセミテ発となっていたのは、乗車券を購入したカレーヴィレッジ発だろうと思い込んでいたが、ヨセミテロッジ発だった。

 9時頃マーセド行きのバスを眼の前で見たのであるが、その時刻になれば戻ってくるのであろうとのんびり構えていたところ、出発時刻の9時15分を過ぎてもやって来ない。少しイラつきながら案内所で尋ねてみたら、バス停はそこでなく近くのヨセミテロッジだと聞かされショック。次の便は16時発で、バス料金は3.50ドルらしい。


 前泊したテントキャビンが空いていればもう一泊と考えたが満室との事。その折、さかんに House Keeping を薦められたが、そこはキャンプ場であろうと認識していた。結局、16時の便でマーセドに戻ることにした。


(今現在、スマホで検索してみると、House Keeping は安価な山小屋風のキャビンのようだ。知ってたらこちらにしたと思う。改めて、スマホは便利だなと思う。それにしても英語力が弱すぎた)


 マーセド行きのバス料金だが、運転手は13ドルだと言う。3ドル50だろうと抗議したが及ばず。


(恐らく、私のリスニングミスであろう。Thirteen を Three fifty と聴き違えたのだと思う)


 マーセドで一泊した後、フレズノ経由で2つ目の国立公園、セコイヤ国立公園を目指す。フレズノではアメリパスが少し傷みが目立ち始めたので新しいのに取り替えて貰った。その折り、係員に行き方を訊いたら、”アウトゥサイドゥ・ラウドゥ・スピーカ” と言ったように聞こえた。"Outside loud Speaker” であろう。

 ”2:45” とメモってくれたので、その時刻に待っていると、案の定マイクロンバスがやってきた。運転手は20代後半と思われる親切で明るい好青年だった。こういう人に出遇うと旅は楽しくなる。旅人に楽しい思い出を提供するのにお金はかからないのである。


 公園内にあるジャイアントフォレストのキャビンに3拍する事にした。ヨセミテ同様、森の中のキャビンはムード満点だ。部屋はシングルとダブルがあるようだ。受付で、”By Yourself?” と訊かれたので、"Yes" と答え、シングルを確保した。

 後で思ったが、相部屋のツインルームはなかったのかな? 変態の同性愛者とでなければ、その方が安上がりで良いのだが、アメリカだからなあ!


 キャビンのすぐ近くにも巨木が随分林立している。実に凄まじい大きさだ。そして、それらの殆どの根本がが黒く焼け焦げているのは何故なんだろう?


 朝早く、寒さで目が覚めた。ナイロン製のアンダーシャツとトレーナーに着替え、スリーピングバッグを掛けて眠り直した。少し寝坊をしたが、ジャイアントフォレストのトレイルを開始する。

 ジャイアントフォレストとはセコイアの中でも最大のジャイアントセコイアの巨木の森である。有名人の名前が付けられたセコイアもいくつか有るようだ。最大のモノは『General Sherrman(シャーマン将軍の樹)』と言うらしい。何でも、南北戦争の北軍の指導者の名前からとったようだ。アメリカらしい。


 午前中は花崗岩のどでかい塊 ”モロロック” を目指す。小鳥の鳴き声が爽やかだ。ただ、蚊には閉口した。

 ”モロロック” からのシェラネバダ山脈の眺望は見事と言う他ない。


 午後からは『General Sherman』をめざしてトレイルを再開する。名前の付いている樹のみならず、無名の樹にも巨木は随分見られた。根こそぎ倒れている巨木もいくつか見られた。その最大のモノには『Dead Giant』と名付けられていた。相応しい名だ。不思議に思うのは、意外なほど根が浅い。これだけの巨体をあの程度の根で持ち堪えられるものだろうか?


 大男の国に迷い込んだガリヴァーになったような気分で歩いているうち、『General Sherman』 に対面できた。世界最大の植物である。樹高80m、幹回り(根回りかも?)33mだそうである。その圧倒的なスケールに言葉を失う。屋久島の縄文杉の比ではない。十分時間をかけて、眼に焼き付けた。


 セコイア国立公園3日目はハイシェラトレイルと言うマイナーなコースをのんびり歩いてみる。殆ど人に遭遇しない。ゆっくり過ぎて遅くなったので山道を急ぐ。

 途中で巨大な倒木に道を塞がれていたが、そこで灰色の毛をした動物を見つけた。そいつは私を見るなりすぐに逃げ去ったが、あれはいったい何だったのだろうか?

 狸ぐらいの大きさだったが、もしやグリズリーの赤ちゃん? いや、まさかね! でも、もしそうだとしたら親熊が近くに居るかもしれない。

 ギクッ! 大急ぎで通り過ぎた。

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