一番遠い花火

@6a_ruqua

第1話

“息抜きに花火見に行かない?”

どうにか探し出した誘い文句。君と見ることが出来るなら理由は何でもよかった。

既読の遅い君だから、本当は行けなくてもよかった。君からの返事が欲しかっただけかも。

この返事で君が私のことをどう思っているのか、少しでも分かれば嬉しかった。

恋人がいるからとか言われたら一目瞭然だったのに。


異性と話すことはもってのほか同性と話すことすら珍しい君だから

本当に限られた人としか喋らない君だからそのうちの一人になれていることに

ほんの少しの優越感と嬉しさを感じていた。だけどそれだけじゃ満足できなくて

私が一番君を笑わせることを出来たらなって、君が見せる貴重な笑顔のきっかけが私で溢れないかなって、他の子とは違う私だけだよって私だけじゃなくて君もそう思ってくれないかなって君の特別になれないかなって。

こんがり焼けた肌にすらっと伸びた背丈に身体は細いのに筋肉のつき方が男子だなって。細い腕から浮き出る血管の男らしさがたまらなくて、大きな目に少し硬そうな髪。かっこいい顔をしているのに無自覚なところ。きっと少女漫画でいうクラスで静かな子が眼鏡を外したらとんでもないイケメンで学校中に広まって人気になったり、実はファンが多い隠れイケメンみたいな感じだよねって妄想を膨らませたり、ワンちゃんを撫でるみたいにわしゃわしゃしたらどうなるんだろう。呼び方だってあだ名で呼ばれる君だから私だけが呼んでいる呼び名に特別感を楽しんで。君の名前の響きが大好きで。バレンタインすら知らなかった鈍感な君に。

たくさんのドキドキよりもたまにのドキドキと

安心感をくれる君にいつしか特別な感情を持っていたと思う。それは恋愛感情としての特別なのか友人としての特別感なのかわからなかった。ただ特別ということだけが私の脳裏に焼き付いている。君も同じだったら嬉しいのにね。ひまわりのように明るくて元気な笑顔を君に届けるのにな。私は特別明るくもなければ反対に特別静かでもない。私は私でしかなくて普通という言葉でも表せないし、なんて言葉がぴったり合うのかな。よかったら君がつけてくれないかななんて。特別明るくもないしクラスの子みたいにかわいくもないけどとびっきりの笑顔を君の瞳に焼き付けるから私と同じ時を歩んでくれないかな。


進学先が離れて数年。いくら同じ地元といえど会うことは一年に一度ばったり会えればいいほうで、SNSの足跡だけで話さなくても見てるんだって認識するだけで実際1年以上会ってないのにどこか定期的に顔を合わせているようなそんな不思議な感覚で。

だけど君は初期アイコンのまま。

私の何でもないストーリーよりも私は君が他の人に共有したいと思ったそれを知りたいの!ストーリーを一年に一回上げるかもわからない君が上げるのは

私が共有したい!と思っていくつにも及ぶ量よりもっと貴重なもので、質より量とか、量より質とかいうけれど君が共有しようと思ったその一回は私が共有したいと思う思いよりも大きくてめったに更新されない君からのその信号は私のストーリーの総数にも及ばない大きなものがある。

そんなSNSの足跡だけでまるで意思疎通ができているような錯覚に陥っているからこそメッセージを取りたいと思った。たとえ君の声じゃなくても君がメッセージのやり取りに向き合ってくれているというそれだけで、たとえ返事が来なくても見てくれるだけで嬉しくて本当は返事が来ないと悲しいけれど連絡無性の君だから見てくれるだけでも嬉しくて。このやりとりがほんの一文でも長く続けばいいのになって思ってた。私の知らない君の話を聞いてあの頃とは違う君をこの目でみて話してみたくなった。受験生にとって大事な夏。だから簡単に会おうよと言えるわけもなかった。だけどふと数日後地元で花火大会があることを思い出した。そういえば友達は恋人と行くって話してたっけ。君と花火を見たいとそう思ったわけではない。いや、やっぱり嘘。見ることが出来るのならもちろん見たい。だけど君と会って話すことが出来るのなら、また部活で話していたあの頃と同じように少しでも話せるのなら場所なんて、理由なんて何でもよかった。だけど誘えるのはもうこれしかないと思った。

もしかしたら。なんて、淡い期待を抱いている私がいた。君からの返事の速度なんてとっくに慣れているはずなのにとても待ち遠しくて。大きな花火が見れなくても良い。君の家の近くまですっ飛んでいくから。君に対する行動力はフィナーレの一番大きい花火の大きさにも高さにも負けないくらいだ。君のためならどんなに遠くてもどこまでも行けてしまえる私だから。


だから、君の一番近いところで見たかったな。



“息抜きに散歩してさちょうど花火見えたからおすそ分け!”

画面越しだけど一緒の花火見られたよね...?

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