二つのお椀

相澤諷冶

0日目

 高校生をやっていると、とにかく金がなくなる。

 友達との遊びや、ファッション、メイクにスキンケアなど。金をかけなければ生きていけないのだということが、この歳になると明瞭めいりょうなビジョンを持つ。小遣いを貰ったことがないほど家計が苦しいのもわざわいし、程なくしてバイトを始めた。



 熱しやすく冷めやすい性格のためか、単発のバイトを好むようになった。アプリに自身の情報を登録しておき、働きたい日時で検索をかけると、2、3件仕事が表示される。その中からより都合の良いものを選び、スマホを数分操作をするだけで、バイトが決まる。前の時代がどうだったのかは分からないが、こんなに楽に仕事が見つかるなんて、いい時代になったと思う。



 とある土曜日、スマホのバイブレーションで目が覚めた。確認すると、例のバイトアプリからの通知だった。安眠を邪魔され、恨めしいやつだと無機質な画面を睨む。仕方がなくロックを開くと、明日の午前9時から午後5時まで子どもを預かるバイト、所謂いわゆるキッズシッターの仕事が紹介されていた。

 休日の微睡まどろみを破壊された上に、子供のお守りという、いかにも面倒そうで割に合わなそうなバイトを勧められた。最悪の一日が始まったなと大きな溜息をつく。

 それでも、何故かその画面から目が離せなくなった。

 子供好きでもなければ、面倒見がいいほうでもない。むしろ友人と焼き肉に行くと、常に肉が焼かれるのを待つような人間であるし、頼りになるなんて言われたこともない。

 しかし、気づけばバイトの応募完了の表示が目前にあった。

 スマホの電源を切り、煎餅せんべい布団のすみへとそれを放る。カーテンから差し込む朝日を受け、欠伸あくびが出た。程よく眠気を掴まえたところで、二度目の眠りにつく。




 

 脳裏に浮かんだ少女は、独りでブランコを漕いでいた。ひたすらに青天井あおてんじょうを見ていた。

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二つのお椀 相澤諷冶 @fu-raibo

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