第4話 いつでも会えると思っていても

「ひなが”鬼神”の総長らと仲ええのはわかったけどやー。なんで来てくれるってわかったん?」


「あ、それはね。街中に”鬼神”の関係者がいて、街の状況をみんなで共有してるんだって。だからチンピラに絡まれてる私たちに気付いた人が、情報を流してくれたんだと思う」


 きーくんの誤解が解けた後、宇賀神さん達はきーくんをすごく気に入っていた。


 ”鬼神”に入らないか、と勧誘されたていたけど……その時きーくんは誘いを断っていたのを憶えている。


 それなのに、いつの間にかきーくんは”魔王”と呼ばれるようになっていて、宇賀神さん達と対等──ううん、それ以上の立場にいる……ような気がする。


 だから宇賀神さんたちは、きーくんの幼馴染である私の面倒を見てくれているんじゃないかな……なんて。


「ほぇ〜。最近の暴走族って情報戦までするんや。ハイテクやね」


「じゃあさ、最近見かける不良たちもやっつけてくれるかなぁ?」


 優希ちゃんが期待いっぱいに目を輝かせている。

 確かに強面の人がうろうろしていたら落ち着かないだろうし。


「うん、多分いなくなると思うよ。”鬼神”の人たちってグループ以外の人が問題を起こしそうなら、すぐ追い出してくれるし」


 初めは”鬼神”も見た目が怖い人が大半だった。

 だけどある時から見た目に気をつけるようになったのか、だんだん怖くなくなっていって。


 そう言えば、”鬼神”の人たちが怖くなくなったのも、きーくんが関わるようになってからだったはず。


 でも、”鬼神”のメンバーじゃない人の意見を、あの宇賀神さんが聞くかと言われれば、そうじゃない気もするし。


 それでもきーくんならありえる……と思ってしまうのは、どんな人でも魅了してしまう謎のカリスマ性のせいに違いない。


 ──本当にきーくんは不思議な男の子だなぁって思う。


「良かった! コレからも安心して歩けるね!」


「もしかして、この街の治安が良いのって……”鬼神”のおかげかもね」


「そうかも。なんか暴走族のイメージ変わりそうやわ。イケメン揃いやったし!」


「ねー! 噂以上にカッコ良くてびっくりした!」


 今回のことで、みんなの”鬼神”への評価が変わったみたい。

 ”鬼神”のみんなはとても良い人たちだから、評価が上がるととても嬉しい。


 私が心の中で喜んでいると、スマホからLIMEメッセージの通知音がした。


「ちょっとごめんね」


 みんなに断りを入れてメッセージを確認してみると、相手はきーくんからだった。


 あっ! きーくんだ! ……と、喜んだのも束の間、ポポポ、と続けてメッセージが届く。


 >いまどこ?


 >暁から聞いた


 >すぐ会いたい


 >ひなの家に向かう


 >10分で着く


 >まってて


 どうやらきーくんは宇賀神さんから、私たちがチンピラに絡まれたことを聞いたみたいで、メッセージの内容からすごく心配してくれているのが伝わってくる。


 私は慌ててきーくんに返信した。


 >今友達と一緒に駅近くのカフェにいるの。何もなかったし大丈夫だよ。


 とりあえずきーくんを安心させようと、簡単にメッセージを送る。

 すぐに既読がついたから無事なのは伝わったはずだけれど、きっと私と実際に会うまで落ち着かないだろうから、早く帰った方がいいよね、と思う。


「みんなごめん! 急いで帰らなきゃいけなくなっちゃった!」


 せっかく楽しくおしゃべりしてるのに、水を差しちゃって申し訳なく思う。けれど、早くきーくんを安心させてあげたい。


「そっか。今日は色々あったし、そろそろ解散する?」


「せやな。もう結構な時間やしな」


「長居しすぎたしね! 今日はお開きかな!」


 楓怜ちゃんの提案にみんなが同意して、結局帰ることになった。

 いつもこうして気を遣ってくれる楓怜ちゃんには、本当に感謝してもしきれない。そして優希ちゃんと玲緒奈ちゃんにも。


「みんな有り難う! また一緒に遊びにこよう!」


「行こう行こう! 今度はどこ行く? どこでもいいよ!」


「花火大会がもうすぐあるねぇ」


「夏いうたら花火やね。それならあたしの家から見えるからおいでや。あ、面白そうな映画あるねんけどみんなで観いへん? お泊まりしようや」


「わぁ! お邪魔して良いの? 夜通し遊んじゃいそうだね。あ、みんなで勉強会は?」


「いいじゃんいいじゃん! 全部やっちゃおう!」


 私たちはこれからの予定をたくさん決めていく。どれもすごく楽しそう!


 明日の告白に失敗したら引きこもる予定だったのに、そうも言っていられなくなってきた。

 でもそれなら、みんなに失恋したって打ち明けて、いっぱい慰めてもらうのもいいかもしれない。


「じゃあねー! また連絡する!」


「ほなねー!」


「みんな気をつけて帰ってね」


「うん! またね!」


 私たちは朝集まった集合場所で別れた。


 いつでも会えると思っていても、この瞬間は少し寂しいな、と思ってしまう。


 私はみんなを見送った後、慌ててLIMEでメッセージを送る。


 >心配かけてごめんね。今から帰るからちょっと待ってて


 ここから私の家まで急いでも十五分はかかる。

 もしかするともうきーくんは私の家で待ってるかもしれない。


 早く帰ろう、と踵を返した時、私の耳に馴染みある声が届く。


「──ひなっ!!」


「え……っ、きーくん?!」


 声の主は大好きな幼馴染のきーくんで、ここまで走ってきたのか、珍しく息を切らしている。


「……良かった。すれ違いにならなくて」


「大丈夫? もしかしてずっと走ってきたの?」


「うん。だってひなが心配で居ても立っても居られなかったから……」


「……っ!! あ、ありがとっ、心配してくれて……っ!」


 私は高鳴る胸を何とか抑えて、きーくんにお礼を言った。


 小さい頃から毎日のように見ている顔なのに、美し過ぎて見飽きるどころか一日中眺めていたいと思ってしまうほど、きーくんはカッコ良い。


 今だって帽子と眼鏡で目立たないようにしているはずが、お忍びの芸能人のようで逆に目立っている。

 現に、周りの通行人はチラチラとこっちを見ているし。


「は、早く帰ろっ! 良かったら家に寄って行って!」


「うん、そうする」


 この場に居続けるのは危険と感じた私は、早く帰ろうときーくんを促した。


 とりあえず、と思って家に誘ってみたけれど、きーくんは素直に頷いてくれる。


 きーくんが私の誘いに簡単に乗ってくれるのは、幼馴染の特権なのかもしれないな、と思う。


 ──だって、きーくんは知り合いでも気が乗らない誘いには絶対乗らないし。


「……暁から連絡もらって、びっくりした。ひなは無事だって聞いたけれど……それでも心配だったんだ」


「あ、有り難う……っ! でもホントすぐ宇賀神さん達が来てくれたから、本当に何もなかったよ! すごいね”鬼神”のネットワーク!」


「そっか……。颯太は上手く使っているんだ。安心したよ」


 きーくんが安堵のため息を漏らすけど、その言葉を聞いた私は「あれ?」と思う。


「えっと……。もしかして”鬼神”のネットワークって……」


「ん? ああ、そうだよ。俺が暁に提案して、颯太に管理させているんだ」


「えっ?! ど、どうしてっ?! きーくんは”鬼神”のメンバーじゃないよね?」


「まあ、そうだけど。でも折角たくさん人間がいるんだし、使わなきゃ勿体なくない?」


「え? ええ〜〜? そ、そうなる……のかな?」


 きーくんがさも当たり前のように言うもんだから、私の方ががおかしいのかな?という気がしてくる。


「ひながチンピラに絡まれた、と聞いた時には”鬼神”ごと潰してやろうかと思ったよ。そもそも、ひなを守るために作ったのに」


「は? え? 私を……? え、どういうことっ?!」


 ”鬼神”のネットワークの発案者がきーくんだと知っても、何となく納得できた。「情報を制するものが世界を制する」って聞いたことがあるし。


 だけどそもそもの理由が、私を守るためだったなんて……!


「だってひなは可愛いし、俺が居ない間に変なやつに絡まれるかもしれないだろ? 実際今日あったばかりだし。だから見守らせてたんだけど、ついでに治安も良くなったから一石二鳥だよね」


「え、あ、う……、うーん。そ、そう言われれば、確かに治安は良くなったけど……」


 きーくんの言う通りだと思う。優希ちゃんたちも治安が良くなったと言っていたから、それはとても歓迎されるべきなのだろう。


「で、でも、私今まで絡まれたことないし……っ、それに可愛くなんて──」


「ひなは可愛いよ」


 きーくんの真剣な声にドキッとする。


 少なくともきーくんは、私の前では本当のことしか言わない。


 何故かはわからないけれど、きーくんの言葉はまるで、世界の真理のようで。


「うぇっ?! え、あ、有り難ぅ……」


 恥ずかしさのあまり、私の顔は真っ赤になってしまう。きっと全身真っ赤だと思う。


 好きな人からこんなことを言われたら、誰だって勘違いしてしまうに違いない。


 だけど──私は知っている。


 きーくんにはずっとずっと昔から、好きな人がいることを。

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