第3話

ある日王子は召使いに

「トンボの新種を見つけたので探してくる。直ぐ帰って来る」

と告げて手ぶらで宮廷の南の門のほうを歩くふりをして、庭の隅に隠してあった変装用具と少しばかりのお金を持ち、携帯は其の場において門から脱出した。門の検査でドキドキはしたが、予想よりはるかに簡単に外に出れた。行く先はすべて調べてノートに記してあったので、道も迷わず生まれて初めて自分でお金を払って乗り合いバスを乗り継いで森に向かったのだ。見るものすべて新鮮だった。バス亭で乗り換えシンダバの森に向かった。森の湖まで来るとあらゆるトンボが飛び交っている。初めての光景に目を見張った。


さて、宮廷に話を戻そう。待てど暮らせども戻ってこない王子が心配になり召使いは宮廷内を探したがどこにも見つからない。一人では手に負えなくなり母君に話するとすべての護衛を配して手分けして宮廷中を探すことになった。しかし夜まで探してもみつからない。母君は半狂乱になり、庭中を探し携帯だけを見つけることが出来た。携帯の主要なところは消されていた。


王子の部屋に入ってみると、綺麗に整頓され、机の上に王子の描いた小さなトンボの落書きだけが残っていた。それを見た両親も侍従たちも、王子が覚悟の上で王宮を脱出したことを悟った。


「このことは誰にも話してはならない。しばらくは王子はご病気と言うことにしよう。その間に何が何でも秘密裡に王子を探し出すのだ」

召使いは叫んだ。

このことが国民に知れれば、あの出来の悪い王子がとんでもないことをやらかしたと大問題になるに違いない。

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