第4話

王子は湖のほとりをさまよっていた。日が暮れると森の様相は変わってきた。夕暮れは例えようがないほど美しかったが、獣の遠吠えも聞こえ、この日のうちに湖に身を沈めるのが得策に思えた。恐る恐る足を水に浸けると思いのほか冷たい。枯れ葉が浮かぶ湖の端で空に顔を向けて横たわると、空がとてつもなく広く、端から出て来た月が美しく輝いている。

「ありがとう」

月と、森と、家族と、乳母や門番、侍従や、手を振ってくれた国民にも感謝を告げた。そのあと王子は「本当にごめんなさい」と呟いてから、静かに微笑んで目をつぶった。

「さようなら」


宮廷では既に大騒ぎとなっていた。王様の耳にもすでに入っており王妃も心を痛めていて倒れそうだった。父君はショックのあまりふさぎ込んで部屋から出て来ないし、母君のメドウ妃の哀しみと苦しみは見ていられないほどだった。兄王に子がなかっため、待ち望まれた子だったのにも拘わらず、妹に薔薇の王子が生まれると、いちいち比較され肩身の狭い思いをしていただろう王子。もしものことがあったらと思うと胸が張り裂けそうだったが、宮廷内の取り決めではこのことは秘密裡に30人ほどの調査員が探すことに決まった。

「どうぞ、無事でいて!」

メドウ妃は神に祈った。


王子の姉のゼルダ王女の哀しみも言葉にならないほどだった。窓の外の月に祈りをささげた。どこかで同じ月を見ているトンボの王子の無事を祈って、ひたすらに祈り続けた。

「どうぞ、神様、私の命に変えても、彼をお守り下さい」

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