東京に来い!
模試の返却日、つまり楠元楓と会った日から3日がたった。あれ以来俺の勉強は散々だ。
今までなら、受かる事を考えて毎日朝から晩まで必死に勉強していたが、模試の結果を見てからは常に不安に付きまとわれながら勉強している。不安、恐怖、苛立ち、今までの人生で一番負の感情に支配されていると言っても過言ではないだろう。かといって宅浪(予備校に行かず自宅で勉強する浪人生)なので友達と話してストレス発散!ということもできない。俺はどうしたらいいのだろうか…
「フゥゥゥー」
深いため息を吐いた。どうにもならないやるせなさを晴らしたいが、今の俺にはどうしていいか分からない。そんな重い気分を噛み締めながら家へと向かった。
部屋に入りスマホを見ると1日分の通知が溜まっていた。スクロールしながら見ていると見慣れないアイコンが出てきた。不思議に思いタップする。
ピコン
「勇輝!!!元気してるー??浪人生活は順調🤔あんまり無理するんじゃないよー
ところでさ、8月ももうすぐ終わるじゃん?気分転換に東京までおいでよ!!たまには外に出なよ👍👍また詳しいことは電話で話すから!」
見るだけでうるさい文章だ。こんな文章を送ってくるのは一人しかいない。
「兄貴・・・」
常田博樹(つねた ひろき)俺の2つ上の兄だ。成績優秀で現役で東大に合格するような男だが勉強しかしないお堅い感じではなく、ことあるたびにおちゃらけてくる男だ。基本的にひとをおちょくるのが大好きな人間だが頭がいいので的確に痛いところを突いてくる所が腹が立つ。そして今回もまるで俺が上手くいっていないことを見透かしているかのように連絡してきやがった。どう返事をしてやろうかと考えていると着信音が鳴った。
「もしもし」
「勇輝!!lineは見たよな!!そろそろ家に帰った頃だろうから連絡したよー」
超能力者かよ
「ああ見たよ。それで?東京に来いって?無理に決まってるだろ」
「えーいいじゃん!どうせ今ほとんど勉強できてないんでしょ。なら息抜きにここまで来なって」
だからなんで分かんだよ。
「・・・確かに今は勉強の調子は悪いよ。でも、今頑張らないと今年もまた受からないかr」
「そうやって惰性で勉強するつもり?そんなんで国立は受からないぞー息抜きしに来いって」
「・・・」
「黙っているということは思うところがあるんだろう?中途半端なままだと全部だめになるぞー」
返す言葉がない。兄貴の言う通りだ。このまま勉強したところで何も変わらないだろう。なら、乗ってやるか
「分かった。行くよ。」
「さすが勇輝!話が早い!じゃ、一週間後の8月31日に東京で会おう!」
「意外だな。兄貴のことだから明日来いとか言い出すかと思ったぜ」
「いやいや、流石にヒッチハイクで東京に来るための準備もあるだろう?準備に3,4日と着くために3日ぐらいで1週間!これで十分だろ」
は?今なんて?ヒッチハイク?何言ってんだ?そんなことするわけないだろ。聞き間違いだよな
「いまなんt
「東京まではヒッチハイクで来いよー新幹線とかバスで来たところで何の面白み無いからな!」
「は?そんな事するわけないだろ!普通に新幹線で行くよ!」
「分かってねえなぁ今の勇輝に足りていないのは刺激だよ。し、げ、き!退屈で変わり映えのない日常から精神をとき放ってやるんだ!」
あぁもうだめだ。こうなったらこいつは人の話を聞かない。長い間会ってなかったからすっかり忘れてた。ここで俺がどんなことを言っても無駄だ。だが、ヒッチハイクなんて絶対やりたくない。何としてもバカ兄貴を説得してやる。
「そんな危険な事、母さんと父さんが許してくれないだろ。」
「さっき電話したらオッケーくれたぞ」
「時間がかかるから勉強に支障が出る!」
「中途半端なストレス発散だと逆効果だ!一週間ぐらい休め!」
「そもそも、そんな危険な事したくねーよ!」
「大丈夫だ!俺も結構やってるけど犯罪に巻き込まれたことは一度もない!」
何がダイジョーブだよ。てか、結構やんなよ
あと何か反論は・・何も思いつかねえ
「分かったか!とにかくお前はヒッチハイクで東京に来い!」
「分かったよ!行ってやるよ!」
こいつの言いなりは腹が立つがやってやる。そして、会ってギャフンと言わせてやる
「よーし!なら決まりだな。なら一週間後が楽しみだな!」
「ああ、楽しみにしとけ!じゃあな」
ツーツーツー
俺は勢いよく電話を切った。啖呵を切ったのはいいがこの先どうしたものか
とにかく準備をするしかない。そう思いネットを調べることにした。「ヒッチハイク 日本 準備」そう打ち込むと思いのほか多くヒットした。
「意外とやってる人いるんだな」
日本一周した人や東京から北海道に行った人、アフリカでヒッチハイクをした人もいる。その人達のブログを見ながら準備をしていくことにした。
スケッチブック、マーカー、着替え、タオル、充電器とモバ充。あとは乗せてくれた人への感謝の品を用意しておくといいらしい。記事を一通り眺めた後、俺は眠りにつくことにした。
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