第11話 白熱!合同会議
翌日。ビックリするほど1日は早く過ぎて行き、ついに放課後。二校の生徒会は、ナツ校の会議室にて顔を合わせていた。
必然的に氷上先輩、遊馬先輩、葵くん、私……と翼くんをのぞく四人が同じ会議室にいる。長机を向かい合わせにし、横一列にみんな座っていた。まるで、ちょっとした授業みたい。学年の違う遊馬先輩や、そもそも学校が違う氷上先輩とこうしているのは、なんだか不思議で新鮮な気分。
そんな時、私の隣に座っている葵くんがコソッと耳打ちする。
「会議の前日に紫温さんがシチューを作ったら、要注意らしいよ」
「なんで?」
「会議で相手を論破する自信があるって意味なんだって。シチューの白は〝降参〟を意味する白旗から来てるとか。そのシチューを食べることで、ちょっとしたゲン担ぎもあるみたいだよ」
「えぇ……」
氷上先輩を見ると、ちょうど目が合い、互いに笑った。その笑顔を見る限り、葵くんが言った雰囲気は感じないけどなぁ。すると時間になったのか、司会が進行を始める。
「それでは二校合同会議を始めます。今日の議題は二週間後に控えた体育祭についてです。合同で行われる体育祭なので、スローガン、種目、チーム分け、そして予算。この四つを決めていきます」
すると、さっそく遊馬先輩が手を挙げた。
「そもそも体育祭の準備が二週間ってところに無理があると思うんだけどなぁ」
だけどすかさず、氷上先輩の反撃。
「模試との兼ね合いがあって仕方なくね。でも毎年スムーズに行われてるから、フユ校は二週間もあれば充分みたいだよ。ナツ校は違うのかな」
二人のにっこり笑顔に、周りが凍えてる。あの淀橋先輩は、司会補佐に「胃痛がするので白湯をください」って言ってるし!ひぇ、初っ端からこの緊迫感!どうか平和に終わりますように……!
「ではスローガンから決めます。案のある方は挙手を、はい。ナツ校の遊馬くん」
「優勝旗 手にするまで 走り抜け。でイイんじゃない?」
「フユ校も異論なしだよ」
満場一致らしく、お題は次へ移る。種目については去年と同じ。チーム分けも、くじ引きでなんなく決まった。驚くことに、光の速さで議題が進んでいく。この調子だと、五分後には終わりそう!――だけど私は甘かった。
司会が「予算について」と言った瞬間。全員が全員、配布された資料に目を落とし、シャーペンを強く握る。どうやら、ここからが本番らしい。
「一ついいかな?この〝備品管理費〟って何だろう。備品を用意するお金は必要でも、管理するお金はいらないはずだよ」
「紫温くんも、牛乳は冷蔵庫に入れるでしょ?そこに電気代が必要でしょ?そういう事だよ〜」
「体育祭の備品は冷やさないけどね」
「言葉のあやだって~」
ニコニコ笑い合っているものの、2人から「負けないぞ」ってオーラがにじみ出てる。私も白湯をもらいたい……っ。するとフユ校の一人が「五ページだけど」と。私が作成したグラフを指摘した。
「グラフが分かりにくい。結局、何が言いたいんだ?」
「えっと、ここは……」
「棒グラフじゃなくて円グラフを使うべきだ。そもそも、なんでパーセンテージで比較しなかったんだ」
「す、すみません……」
そんなこと言われても、わからないよ。下書きを参考に作っただけだもん……っ。相手は三年生なのかな?私を見る目が怖い。しかも「どうなんだ」って言われても……答えないといけないのかな。でも、何て言ったらいいんだろう?
緊張から上手く言葉が出ないでいると、隣に座る葵くんが「いいですか?」と手を挙げた。
「今は会議中であって、ディベートではありません。良い資料作りを目指したいなら、お一人でどうぞ。俺は完璧なグラフだと思いますよ」
(葵くん……)
先輩相手に怯みもせず、私を助けてくれたんだ。凹んだ心に、葵くんの優しさが積もっていく。それだけじゃなくて。
「葵くんの言う通りだね」
なんと他校である氷上先輩も、私のフォローをしてくれた。
「楽しい体育祭をするためには、まず俺たちが仲良くしないとね。このグラフはよく出来てるよ。よどくん、どうせなら粗探しじゃなくて、よく出来てる部分を褒めなよ」
「……わかった」
よどくん、と言われたフユ校の人は、渋々うなずいた。怖そうな〝よどくん〟を黙らせるなんて……「氷の生徒会長」って噂は本当なんだ。
「すみません、おかわりを……」
ピリッとした空気の中。隣の淀橋先輩が白湯のおかわりを要求する声が、会議中、何度も聞こえた。
白熱した会議の結果――
予算の話は折半で終わり、両者痛み分けとなった。取り分を多くしたかった遊馬先輩は残念そうにするも「まぁこっちが減らされなかっただけ大成功かな」と気が抜けたように笑った。
今は、みんなで会議の後片付け中。長机を移動させようとした時、机の反対側に氷上先輩の手が添えられる。
「千里さん、会議に付き合わせちゃってごめんね。俺、怖かったでしょう」
「氷の生徒会長って噂、納得しました」
「ふふ、知ってたんだ。良いネーミングだよね。俺の名前の〝氷〟も入ってるし」
氷上先輩、氷の生徒会長……あぁ、確かに!
だけど和菓子をくれた時のことや、さっきかばってくれた事を思い出す。
「でも先輩の雰囲気って、名字より名前ですよね」
「名前?」
「紫温って、温かいって漢字じゃないですか。和菓子をくれたことや、さっきの会議中、他校なのに私をかばってくれたこと……先輩の優しさって、全部ぜんぶ温かいんです。だから私の中で氷上先輩は、名前の印象が強くて……あ、そうだ!
これからは氷上先輩じゃなくて、紫温先輩って呼んでもいいですか?」
「!すごいタイミングで名前を呼んじゃうんだね、千里さんは……」
紫温先輩を見ると、口に手を当て、少しだけ頬が染まっていた。もしかして照れてる?名前で呼ぶの慣れ慣れしかったかな?不安に思っていると、さっきの会議とは打って変わって、大人しい挙手をした紫温先輩。
「名前を呼ぶかわりに……俺からも、一つお願いがあります」
「はい、なんでしょう?」
「俺も〝ひなるちゃん〟って呼んでいい?」
「ふふ、もちろんです!」
両手で大きな丸を作ると、紫温先輩はくしゃりと笑った。珍しい笑顔に釘付けになっていると、先輩が私からひょいと机をとる。そして「俺が持って行くよ」と、すたこらさっさ。でも長机だし、一人じゃ重いはず!
急いで手を伸ばすも――ギュッ。紫温先輩の温かい手に握られ、阻止された。
「本当に一人で大丈夫。温かい〝だけ〟の俺じゃなくて、力のある男子だって所を見てほしいな」
「力のある男子……?」
私から手を離し、再び机を運ぶ紫温先輩。重たいはずなのに、先輩はケロっとした顔。そっか、男の子って力持ちなんだ。
「女子とは全然ちがうんだなぁ」
「何が違うの?」
「わ、葵くん!」
急に現れた葵くんにビックリする私――を、机を運び終わった紫温先輩が、遠くから見つめていた。そこへ、同じく机を片付け終わった遊馬先輩がやって来る。
「お疲れー。なに見てるの~?」
「お疲れ様。何でもないよ」
「ふぅん?」
だけど紫温先輩の視線の先に、私がいると気づいた遊馬先輩。何かを察知し「まさか」と声をもらす。
(紫温くんは、恋とは無縁だと思ってたけど……)
だけど、次の紫温先輩の言葉を聞いて。その「まさか」は、確信めいたものになる。
「俺もひなるちゃんと同じ学校なら良かったのになぁ」
「紫温くん、やっぱり君……」
そうこうしている内に片付けは終わり、フユ校の人たちは、自分の校舎へ帰った。
「遊馬先輩、お疲れ様です!どうかしましたか?」
「え……あ、ううん。何でもないよ」
一つの甘く複雑なしこりを残して。ナツ校に、いつもの日常が戻ってきた。
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