第10話 私が生徒会役員!?
「ひなちゃん~!!生徒会が大変なんだよう、助けてよ~!!」
私の両肩を持って叫ぶ遊馬先輩。翼くんの部屋が近いから、仕事の邪魔になっちゃう!急いで廊下からリビングに移動し、じっくり話を聞く。
「何があったんですか?」
「生徒会の一人が、またボイコットしちゃってさぁ。もう俺一人じゃ、カバーできなくなっちゃって」
「確か、既に生徒会長さんがボイコットしてましたよね?今度は誰が?」
「書記と会計。一人で二つの仕事をしてたんだ。でも、さっき電話で〝もう逃げます〟って言われて。うわ~ん!」
えぇ、ナツ校の生徒会はどうなってるの!あきれていると「もっと悪いことがあって」と遊馬先輩。
「フユ校との合同会議が三日後にあるんだよ。その準備があるのに、人手不足で絶対に間に合わない。でも紫温くんから〝準備不足だ帰れ〟なんて言われたくないし。
だから、ひなちゃん!三日間だけでいいから、生徒会に入ってくれない⁉」
「えぇ⁉」
突然のお願いにビックリだけど、あの優しい氷上先輩が「帰れ」とか言うのもビックリだよ!想像できない!
「ひなちゃん!今後のナツ校の命運は君にかかっている!大変だろうけどサポートするから、書記と会計の仕事を頼まれてほしい‼」
(こっちも、おかし調理部の命運がかかっているんですが……!)
部員を集めるタイムリミットは、残り五日。その内の三日は生徒会に引っ張りだこになるだろうから、勧誘できるチャンスは実質二日となる。
二日で八人、勧誘できるかな?
もし部員が集まらなかったら、おかし調理部は作れない。このために入学した私としては、生徒会の話を断って、全力で部員確保に努めたいところ。
でも……
(遊馬先輩の困った顔を見ていたら、断れないよ)
遊馬先輩は、私が寮に来て最初に優しくしてくれた人。歓迎されてないムードの中、それでも私がここにいられるのは……遊馬先輩が優しく接してくれたから。だから今度は、私が恩返しする番だよね。
「分かりました。私が役に立つか分からないですが、精一杯がんばります」
「本当!?ありがとうひなちゃん!」
パッと明るくなった先輩。良かった、先輩に笑顔が戻った!
「さっそく生徒会について教えてください!」
「そうこなくっちゃ~!」
生徒会に入っても、残り二日は勧誘に使えるしね!よし、やるぞー!
◇
「いや、絶対ムリだよね?なんでyesって言ったの、ひなる」
「うぅ、私が浅はかでした……」
早いもので。生徒会に入って、二日が経った。明日はついに合同会議。遊馬先輩から毎日、生徒会の事をてんこ盛りに教わっているからか。私の元気は、日に日に失われていった。
「もう放課後か……今日も生徒会室に行ってきます」
「無理しないでよ、ひなる?」
「ちょっとくらい無理しても大丈夫だよ。明日が会議本番で、生徒会最後の日だから。じゃあね、アキラちゃん」
「うん……」
私が見えなくなるまで、ずっと手を振るアキラちゃん――悲しそうなアキラちゃんに気付いたのは、既に部活に行ったはずの葵くんだった。
「……何かあったの?」
「四条くん。あれ、部活は?」
「忘れ物。今日はひなると一緒じゃないの?」
アキラちゃんは「はぁ」とため息をつく。そしてどこを見るでもなく、頬杖を突きながら本音をこぼした。
「実は、ひなるが心配でさ」
「何かあったの?」
「四条くん知らない?ひなる、三日間限定で生徒会に入ったんだよ」
「え――」
聞いた途端、葵くんは目が点になる。だけど心当たりがあるのか「なるほど」とアゴに手を添えた。
「どうりで、最近おかし調理部の話を聞かないわけだ。にしても、なんで生徒会?」
「遊馬先輩の頼みで断れなかったみたい。明日は合同会議があるから、今日も資料作りで生徒会室に行ってるよ。あの子って真面目だから、しょい込み過ぎてるんじゃないかって心配なんだよね」
「滝本さん、教えてくれてありがとう。ひなるの事は心配しないで」
「それってどういう……あれ?」
聞き返した時、もう教室に葵くんはいなかった。あまりの俊足に、今度はアキラちゃんの目が点になる。
「〝心配しないで〟って言ってたし、ひなるの事を助けに行ってくれたのかな?なら安心だ。ってか四条くん、ひなるって呼んでるんだ」
さっきの四条くんの必死な顔を思い出し、キャーと赤面するアキラちゃん。「いや〜青春だなぁ」と、葵くんと私の机を交互に見ていた。
一方――
そんな会話があったと知らない私は、途中で会った遊馬先輩と生徒会室を目指していた。イケメンで愛嬌もいいからか、遊馬先輩はナツ校の人気者。副生徒会長の肩書きもモテるらしく、すれ違う女子が「私も生徒会に入りたい!」と目を輝かせていた。
「あぁいう子たちを生徒会に入れないんですか?」
「ん~あはは。どうしようかな」
あれ、はぐらかされた?違和感を覚えたと同時に、生徒会室に到着する。中に入ると、生徒会のラストメンバーが、シャーペンを片手にペコリとお辞儀した。生徒会・監査。三年の淀橋(よどばし)一富美(ひふみ)先輩だ。眼鏡をかけた、真面目な男の人。
「副会長、会議で使う資料のコピーが終わったぞ」
「ありがとう、助かる~。じゃあ明日の流れを確認した後、皆でホチキスで止めよう」
遊馬先輩は、淀橋先輩に敬語を使わない。淀橋先輩も、タメ語は気にならないみたいだ。信頼関係があるみたいで、なんかいいなぁ。
「千里さん、手が止まってる。結構な数があるから急ぐように」
「は、はい!」
淀橋先輩、動きに無駄がないし早い!さすがベテランだ。私も続くぞ!と意気込む横で、遊馬先輩が「ん?」と。何かに気付いたのか手を止めた。
「ココのグラフ、数字が間違ってる〜」
「え……あ、私のミスです!」
見直ししたはずなのに、私のバカ……!
遊馬先輩は笑ってくれたけど、淀橋先輩は明らかに怒っている。それもそうだ。だって三十部の冊子のうち、もう半分ほどホチキスで留め終わっているもん。今からコピーし直して、ホチキスを止め直して――時計を見ると、18時半。あと30分で最終下校だけど、今から間に合うかな!?
「……っ」
「大丈夫だよ、ひなちゃん。修正テープで直そう」
「遊馬先輩……」
テープで直していいんだ、良かった!安堵の息をつく私を見て、淀橋先輩が遊馬先輩を睨んだ。
「大体、遊馬くんが厳しいから皆が逃げるんだぞ。〝フユ校の氷上生徒会長が怖くてメンバーがボイコットしてる〟とか言ってるが、君の厳しさが本当の原因だからな」
「え」
そうなの⁉遊馬先輩を見ると、へらっと笑いながら頭をかく。
「えぇ~俺そんなに厳しいかな?」
「千里さんにしてもそうだ。急に書記と会計をこなせなんて……よくついてきてくれてる。感心する」
「淀橋先輩~っ」
ポロポロ泣く私に淀橋先輩はギョッとするも、ポケットからハンカチを渡してくれる。うぅ、優しいなぁ。
「めげずについてきてくれて感謝する。遊馬くんは言動がチャラいが、生徒会に関しては案外ストイックでな。キツかっただろう」
「ちょっとちょっと!俺はいつも適当だって~」
「嘘つけ。生徒会の役員が全員男子なのも、自分に惚れたはれたではなく、真面目に仕事をする人を選んだ結果だろう。資料のチェックを頼んだ時もそうだ。夜だろうが光の速さで返答が来るし、一体いつ休んでいるのか不気味なくらいだ」
(そうだったんだ)
寮にいる時、遊馬先輩は常にスマホを触っていた。あれは遊んでいたわけじゃなく、生徒会の仕事をしてたんだ!思えば、あの時も。
『あぁいう子たちを生徒会に入れないんですか?』
『ん~あはは。どうしようかな』
ちゃんと生徒会の仕事をしてほしいから、自分目当ての子は生徒会に入れない。それってなんだか、私がおかし調理部に幽霊部員を入れたくないって思うのと、似てる気がする。
「遊馬先輩って学校のことを、すごく思ってくれてるんですね」
「んなわけないでしょ~。買いかぶりすぎだって」
「いえ。私が学校生活を楽しく送れるのは遊馬先輩たちのおかげなんだって、今わかりました!」
「……言ったでしょ、ぜんぶ適当だって。この資料だってさ、修正テープでちゃちゃっと直そうよ」
間違ったグラフを、トントンと指でつく遊馬先輩。でも、それって先輩は嫌じゃないのかな。どんな時でも真剣で、真面目に仕事をこなす先輩だからこそ、間違いのない資料の方がいいよね?
「私……コピーし直してきます。先輩たちは先に帰ってください。後は私がやっておきます、任せてください!」
「ちょ、ひなちゃん!?」
グラフのデータを保存しているUSBを持って、パソコン室を目指す。遅い時間だからか、パソコン室には一人の生徒もいなかった。
「よし、さっそく直すぞー!」
修正が終わり、再び30部印刷する。これを生徒会室へ持ち帰り、半分ほど終わったホチキス止めを解いて、ページを差し替えて、それから、またホチキスで止めて……。
「ほ、本当に終わるのかな……?」
先輩達には見栄を張ったけど、私一人で最終下校までにやれるのかな。間に合うのかな。もしも間に合わなかったら、寮に持って帰っていいのかな。あぁ、でも個人情報うんぬんで、持って帰れないだろうな。
「……っ」
焦ると心細くなり、目に涙がたまる。私、一人で突っ走った。もし明日までに間に合わなかったら、遊馬先輩と淀橋先輩はガッカリする。せっかく褒めてくれたのに。
「うぅ~……っ」
心細さがついに限界を超え、涙が溢れてほほを伝う。
その時だった。
――ギュッ
あたたかな体温が、後ろから私を包み込む。見覚えのある筋肉質な手。これは……
「葵くん……?」
「七海さんに聞いたら、ひなるはココだって聞いて……ごめん、遅れた。本当はもっと早く来たかったのに、サッカー部の顧問と話しが合わなくて」
(部活を抜け出して来てくれたんだ……!)
走ってきてくれたのか、息切れしている。必死になって私を追いかけて来てくれたのかな……私のために?
「滝本さん、心配してたよ。ひなるが頑張りすぎてるって」
「アキラちゃんが?」
「そして俺もね……みずくさいよ、ひなる。こんな時こそ俺を頼ってよ」
「……うん」
葵くんがそばにいてくれる安心感に、また泣きそうになる。後ろから回された葵くんの腕を、少しだけ握り返した。
「でも夏に大会があるって言ってなかった?練習に出ないと」
「今日練習に出なかったくらいで、磨いた技術はなくならない。でも、ひなるは違うでしょ?ひなるは〝今〟誰かに助けてほしいでしょ?」
「……っ」
そう。そうなんだよ、葵くん。私ね、意地はって、間違っちゃった。褒められたことが嬉しくて、舞いあがってたの。
「ごめん、葵くん……助けてっ」
「うん。よく言えました」
私から離れた葵くんは「はい」と。一枚の紙と、一つのチョコを渡す。
「ひなるに受け取ってほしい」
「これ……入部届!?」
部活名の欄に「おかし調理部」。名前の欄には、やや達筆な字で「四条葵」と書かれていた。
「葵くんが、おかし調理部?」
「変かな?」
「全然!でも、いいの?」
私と翼くんと葵くんと。三人集まったら、きっと楽しい部活になる。でも、サッカーはいいのかな?おかし調理部に顔を出す時間あるのかな。すると葵くんは「毎週水曜日がサッカー部の休みなんだ」と言った。
「週一回だけど、おかし調理部の活動ができる。俺もひなると一緒におかしを作りたい。ひなるは違うの?」
「私は……葵くんが一緒にいてくれたら嬉しい」
「良かったっ」
「!」
屈託ない笑顔。本当に入部したいって思っているのが分かる。それだけで嬉しくて、また涙が溢れた。
「ありがとう、翼くん」
「俺のほうこそ。じゃあチョコ食べて元気出して。俺も手伝うから、最後までやりきろう」
「うんっ!」
コピーの終えた30枚の紙を手に、生徒会室へ急ぐ。その時、葵くんが衝撃的な発言をした。
「そう言えば、明日の合同会議は俺も出席するから。さっき七海さんに話つけといた」
「えぇ!?でもサッカー部が……」
私の言おうとした事が分かったのか。葵くんの手が、私の口を優しく包む。
「それ以上はシー。これは俺が決めたことだから」
(葵くん……)
葵くんの貴重な時間をもらうんだって思ったら、今までより、もっともっとヤル気が出た。なりゆきで生徒会に入ったけど、最後まで務めたい。合同会議、がんばるぞ!
――ガラッ
「おかえり~」
「待っていたぞ」
「……え?」
生徒会室には遊馬先輩に、淀橋先輩の姿。二人とも、まだ残ってくれてたんだ!
「ひなちゃん残して帰るわけないでしょ?」
「ホチキスは全て外しておいた。すぐ差し替えするぞ」
「~っ、はい!」
感動して泣きそうになっていると、ポンと肩を叩かれる。見上げると、葵くんが「良かったね」とほほ笑んでくれた。
結局――4人で作業をし、無事に資料作りが終わる。今は葵くんと遊馬先輩と私で、寮に帰っている途中。
すると私を心配したアキラちゃんから、電話がかかってくる。二人と距離をとって、私は電話に集中した。
一方、残された二人は……。
「ひなちゃんって不思議な子だよね。今まで会ったことのないタイプ。ねぇ葵クン、俺がひなちゃんを好きって言ったら、どうする?」
「は?どうするって、」
驚く葵くんを見て、遊馬先輩はニヤリと笑みを浮かべる。
「前、ひなちゃんと二人きりで葵クンの部屋にいたよね?あれは葵クンから誘ったんでしょ?ってことは、葵クンも俺と同じってわけだ――
ひなるちゃんのことが好きだよね?」
「……」
二人して、電話中の私を見る。その視線に気づいた私が、控えめに手を振った。遊馬先輩が私に手を振り返しながら、ちらりと横目で葵くんを見る。
「その顔、まさか自覚なし?でもウカウカしてたら、俺が横からかっさらうよ。それでもいいなら、今まで通りサッカーに没頭しててね、葵クン♡」
「……」
その時、電話を終えた私が合流する。だけど、なんだか妙な空気。重たい、というか。
「何かありました?」
「……別に」
「なにも~?」
たまに訪れる沈黙に気まずさを覚えながら、3人で帰宅する。玄関に入った時、氷上先輩特製シチューの匂いに、お腹の虫が元気よく反応した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます