第6話 新しい部活作り
「新入生代表の挨拶の時。みんなすごかったねー」
「本当!コンサートに来てるみたいだった」
入学式が終わり、体育館から教室に帰る途中。さっそく友達になったアキラちゃんと、思い出し笑いをしていた。
友達出来るかなあ?と心配していたけど、四条くんと教室に入った後。座席表で確認した自分の席にいると、誰かに肩を叩かれた。それが滝本(たきもと)アキラちゃん。ショートカットが似合う、サッパリした雰囲気の子。スタイルがよくて、鼻が高くて、まつ毛が長い。とっても美人な女の子!
『いきなりごめんね。でもソコ、あたしの席でさ』
『えぇ⁉』
という感じで。私のミスがきっかけ……っていうのがアレだけど。無事に友達が出来たんだ!アキラちゃんとは席が前後で、入学式の並びも隣同士。だから新入生代表の挨拶の「異様な光景」も、二人で並んで見ていた。
「顔はいいし、頭も良い。そりゃ女子が放っておかないよねー」
「あはは……」
新入生代表の挨拶の時の四条くんは、それはそれはスゴイ人気で。壇上に上がった瞬間、割れんばかりの歓声が上がった。時を同じくして、隣の体育館からも女子の歓声――どうやら同じ時間に、フユ校の新入生代表の挨拶も始まったみたい。
二校あわせた歓声は、まるでコンサート会場にいるみたいで。厳かな視覚と賑やかな聴覚が合わない、不思議な時間だった。
(さすが四条くんと白石くん。イケメン二人組)
改めて二人のカッコよさを実感する。そんな二人と一緒に住んでる、なんて。口が裂けても言えない!
「でもさぁ、ひなるは噂になってるよ?」
「噂?」
「今日登校する時、イケメン二人と一緒に来たんでしょ?何か関係あるのかーって、女子がヒソヒソ話してた」
「えぇ、誤解だよ!わ……私が何回もハンカチを落としちゃってさ!二人は拾ってくれただけなのっ」
なんとか誤魔化すも、大量の冷や汗が顔を流れる。もう噂になってるなんてビックリ!だけど大きな声で説明した事が幸をなし、周りで聞き耳を立てていた女子たちが「良かった~」と安心していた。何とかなったようで、思わず私もホッ。
だけどアキラちゃんだけは違うようで。妖しい笑みを浮かべ、私の肩に手を置いた。
「あたしは自分の恋愛には興味ないけど、人の恋愛は違うから!困ったことがあったら、いつでも言いなね?」
「うん?ありがとう、アキラちゃん」
「ところで。さっそく今日から仮入部が開始だねぇ。さすが、やりたい事を極めさせてくれるナツ校。もう仮入部なんて早いよね。ひなるは何に入るか決めてる?」
「えっと、実はね」
部活こそ、私がナツ校を受験した理由。私のやりたいこと!
「おかし調理部を、新たに作ろうと思ってるの!」
「すごいじゃん!確かに、ナツ校もフユ校も調理部はなかったなぁ」
「ナツ校のホームページを見た時に〝新たな部活設立・大歓迎〟って書いてあって。それを見てナツ校に行きたいって思ったんだぁ」
「私もホームページ見たよ。でも新しく部活を作るには条件があるって、小さい字で書いてあったような」
え⁉条件?なにそれ知らなかった!そう言えば昨日、私を寮へ案内してくれた先生も……
『好きな部活を作っていいわよ』
『ただし条件があってね』
って言ってた気がする。その条件って、一体なに――⁉
❀
「じゃあ、この書類に必要事項を記入してね。設立が許可されるのは申請書に書いてある通り、一週間以内に部員が十人集まった場合のみ。頑張ってね♪」
「十人⁉でも設立大歓迎って……!」
「ある程度は人気のある部活じゃないと、継続して部費を出せないからねぇ。こればかりは仕方ないわね」
ホームルームが終わった後。担任の日野(ひの)先生に会いに、職員室へやって来た。日野先生は若い女の先生で、親しみやすい雰囲気。さっそく皆は「日野ちゃん」って呼んでいる。いま顔を青くしている私もしかり。
「日野ちゃん。私、十人集める自信がないです……」
「でも部活として成立すれば、週二回の調理が可能。更にはコンクールに出場したり、文化祭でも模擬店を出せるわよ!お友達とか知り合いとか、片っ端から声を掛けてみたら?」
「さっきアキラちゃんに〝入らない〟って言われました……」
アキラちゃんから「お菓子を食べたら太る」と断られた。手を合わせて謝ってくれたけど、アキラちゃんは悪くない。入るも入らないも自由だもんね。それに、もしアキラちゃんが入ってくれたとしても全然たりないし……。
泣きそうな私を見て、日野ちゃんが穏やかな笑みを浮かべる。
「大丈夫。既に千里さんが部員の一人だから、残りは九人よ!楽勝楽勝♪」
「だから、それが無理なんですってー!」
職員室で叫んだ後――どんよりした気持ちで寮に帰る。
「ただいま帰りました~……あ」
リビングには低いソファがある。そこに〝新入生代表の挨拶〟の大役を終えた白石くんが、寝転んでお昼寝していた。
「制服のまま寝るとシワになるよー」
「スー……」
よく見ると、目の下にクマがある。もしかして昨日、寝られなかったのかな。だったら、このまま寝かせてあげよう。私も部屋には戻らず、静かに椅子に座る。ファイルから取り出したのは、あの書類。
「部活動登録申請書、かぁ」
書類には、主な活動場所、活動内容、申請者、そして部員名簿を記入する欄がある。名簿には十人分の空欄。うぅ、果てしなく続いてるように見える。
「一週間以内に十人も集まるかなぁ。いや……集めるんだ。だって私は、そのために入学したんだもん」
書類の最後に「申請する理由」を書く欄があった。ここから先に書いちゃおう。
「〝私がおかし調理部を設立したい理由は――〟」
頭の中に思い浮かぶのは、幼い頃の私。そして、いつも笑顔のおばあちゃん。
私のお父さんは、私が小さい頃に病気で亡くなった。それからというもの、お母さんは朝も昼も、寝る間も惜しんで働く日々。なんとか私が生きていけるよう、毎日必死に頑張ってくれた。
家でお母さんを待つ私は、幸運にも一人じゃなかった。一緒に住んでいたおばあちゃんは、私が学校から帰ると、いつも優しい笑顔で迎えてくれた。そんなおばあちゃんの趣味は、おかし作り。クッキーやケーキ、どら焼きや大福だって作れちゃう、おかし作りの天才だった。ある日、おばあちゃんに聞いてみた。「どうしてお菓子を作るのが上手なの?」って。
『ひなるのママと一緒でね。結婚してすぐ、おじいちゃんが病気でいなくなっちゃったの。もう寂しくてね。でも……寂しがってばかりじゃ、おじいちゃんも天国に行けないでしょ?だから趣味を見つけることにしたの。それがおかし作り。
だから、ひなるもね。寂しくなった時、おかしを作るといいよ。おかし作りはね、寂しさが紛れるから。それに、おかしを食べていると不思議と元気になってくるの』
そう語ってくれたおばあちゃんは、私が小学四年生の時に病気で他界した。そして家には、私とお母さんだけになった。だけどお母さんは変わらず仕事ばかりで……寂しかった。その時に、おばあちゃんの言葉を思い出した。
『ひなるもね。寂しくなった時、おかしを作るといいよ』
お小遣いの範囲で材料をそろえて、おばあちゃんが残したレシピ本を見ながら、一生懸命に作った。だけど、いつも失敗しちゃって。全然おいしくならなかった。
『おばあちゃんみたいに上手くできないよ。おばあちゃん、帰ってきてよ……っ』
甘くないおかしを食べても、寂しさは増すばかり。お母さんもおかし作りは苦手なようで、休日に誘っても「失敗するから」と断られることがほとんどだった。おばあちゃんがいなくなった家は、途端に広く感じて。静かで、やっぱり寂しかった。
おかしを上手に作りたい、美味しいおかしを食べて元気になりたい――その想いは強くなっていくけど、解消する方法が見つからなかった。
ナツ校のホームページを見つけたのは、そんな時だった。
『新しい部活……そっか!おかし好きの人が集まれば、たくさんのおかしを作ることが出来る!それに作り方を教えてもらえる!そうしたら寂しくなった時、おかしを作って元気になれるね!』
「――……その日から。ナツ校に合格するため、必死に勉強したんだよね」
繰り上げ合格だけど、無事に入学できた。きっとおばあちゃんが背中を押してくれたんだ。「頑張れ」って、天国から見守ってくれているんだ。
「部員数に怖じ気づいてる場合じゃないよね……よし。がんばるぞ!」
正面から、書類と向き合う。申請理由を書いた後、部員名簿の一番上に、堂々と自分の名前を書いた。次に、白い紙を取り出す。部員を増やすために、ポスターを作ろうかな。たくさん作って、どんどん掲示板に貼っていこう!
「部活の名前は大きく書いた方がいいよね。黒色だとカタいかな?でも薄いと見えにくいし」
書いては消して、書いては消してを繰り返す。必死になっていたから、白石くんが寝ているのも忘れて、作業に没頭していた。すると案の定。私の大きな声で、目を覚ました白石くん。だけど「うるさい」も「静かにしろ」も言わないで、
「う~ん、センスが欲しいよぉ」
「……」
ポスター作りに没頭する私の姿を、黙って見つめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます