第40話


 お母さんと一緒に、家まで歩く。

 やっぱり、四本の足は自然とあの道を避けて、遠回りする。

「ねぇ」

「んー?」

「お母さんは、人のことを呪ったこととか、ある?」

「なぁに? 急に」

「んー。なんとなく」

 お母さんは、うーん、って唸って、目をぱちぱちさせた。

 ふわ~んって、近くのパン屋さんから甘い香りがする。

 お母さんは、鼻をクンクン、ってした。

 クンクンってすると、過去のことを思い出せたりする人だったっけ?

 あたしはお母さんがする、不思議なしぐさをちらちらと見ていた。

「よし、パン買って帰ろう」

 お母さんは、あたしの質問のことを考えて、クンクンしていたわけじゃなかった。

「ひどい。あたしの質問は?」

「ちゃんと答える。だけど、お腹減っちゃったの。お母さん、お昼食べないで学校行ったからさ。ジュアは? 給食食べた?」

 あたしは首を左右に振った。

「じゃあ、行こう。こんなおいしそうな匂いを嗅いで、我慢するなんてムリムリ!」


 こんな時間に、小学生がパン屋さんにくるなんて、珍しいはずだ。

 お店の人はほんの少し不思議そうな顔であたしを見た、気がした。

 でも、お母さんが一緒だったからか、すぐに笑顔に変わった。

「どれにしようかな~」

 お母さんは、子どもみたいにワクワクした顔で、パンを選ぶ。

「どんなパン食べたい? 半分ことか、する? 食べたいのふたつ選んでさ」

「じゃあ、お母さんが食べたいの、ふたつ選んで」

「ええー、いいの? じゃあねぇ、どれにしようかな~」

 悩んでいるような言葉を口にしたくせに、お母さんは一直線に甘いパンのコーナーに行くし、あたしが一番好きなパンを迷わずトレーにのせる。

「ねぇ、それ、あたしが好きなやつ」

「うん。知ってる。だから、ジュアが食べやすいと思ったし、お母さん、これしばらく食べてないからさ。懐かしい味を楽しみたいな、と」

「ふーん。じゃあ、もうひとつはお母さんが食べたいやつね。あたしが好きなのとかじゃなくて」

「え、それってさ、ジュアは嫌いだけど、お母さんが食べたいやつってこと?」

「ん? なんか話が難しくなってるよ。あたしが好きとか気にしないで、お母さんが食べたいやつを選んでって言ってるの」

「なるほどね。オッケ~」

 お母さんは、あたしが言ったことを理解していないんだろうか。

 それとも、親子だから、なのだろうか。

 結局、あたしが好きなパンをふたつ買った。


「よーし。お家でこれを食べながら、さっきの話の続きをしよう」



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