15.あたしのせい?
第35話
あたしは真っ黒のリュックに、黄色い防犯ブザーをつけた。
チルちゃんから貰ったキーホルダーは、今もあたしの心を守ってくれてる。
だから、ずーっと一緒にいたい。
でも、可愛いやつだから、リュックの内ポケットに入れておく。
せっかくのショートカットと真っ黒リュックが、台無しになっちゃうような気がするから。
久しぶりの登校は、お母さん付きだった。
もうそんな歳じゃないんだからって思って、恥ずかしさが少しあった。
でも、恥ずかしいと思っていられたのは、登校する日の前の日までだった。
だんだん、学校へ行くんだって思うと、ドキドキしてくる。
どうやって学校へ行っていたのか、よく思い出せない。
どんな顔で学校へ行けばいいのか、あたしにはよくわからない。
だから、お母さん付きでよかったって、その日になったら思えた。
あたしの心を見透かしているのか、それとも、ふたりして同じことを考えているだけなのか。あたしとお母さんの足は、迷いなくあの道を避けて、遠回りする道を選んで、学校へと向かった。
いつもと違う道を通っているからなのかもしれないけれど、久しぶりの通学時間帯の外の世界は、なんだかいつもと違って見えた。
あたしが学校から離れている間に、世界はがらりと変わったみたいだった。
歩道を歩く大人の数が、明らかに増えていた。
これまでは、新学年になってすぐのころに、一年生のお父さんやお母さんがいるくらいで、大人の姿はほとんどなかった。
それなのに、まるで世界が変わってしまったみたいに、子どもばかりの道じゃなくなってる。
「ねぇ、なんでみんな、一人で登校してないの? ああ、いや……兄弟がいたりとかしたら、一人ってわけでもないけどさ」
緊張を隠すようにちょっとへらへらしながら、お母さんに聞いた。
お母さんは、あたしを見て、悲しそうな目をして、少し口角を上げた。
「今は、そういうふうに変わったの。学校の決まりっていうか。基本的に、子どもだけでは歩きませんってなってる」
「……へぇ」
「どうしても大人がついて行けない人たちは、集合場所を決めて、集団登下校してたりするみたい」
あたしの心の中に、あたしなりの考えが膨らみ始めた。
「ふぅん」
「幼稚園バスに乗る時みたいに、集まってさ、それで――」
「それって、あたしのせい?」
「……え?」
「あたしのせいで、そうなったの?」
「……ジュアのせいじゃ、ないよ」
「でも……」
「ジュアのせいじゃない。ジュアのせいじゃないよ。ジュアはなにも、悪くないもん」
お母さんの語尾は、子どもみたいに感情丸出しだった。
お母さんの心が、ぶるぶると震えているように、あたしには見えた。
赤信号がピカーっと光ってる。
あたしたちの足は、止まった。
赤信号は、口の動きも止めた。
お母さんは、黙った。
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