14.変身

第33話


 あたしは警察署で、お母さんと会った。

 お母さんの顔は、涙でぐしゃぐしゃだった。

 ちょっと前の、コンビニにいたときのあたしは、こんな顔をしてたんだろうなって、どこか他人事のように思う。

 ギュッてされて、ヨシヨシってされて、だんだん自分事って感覚が、はっきりとしてきた。

 そうしたら、ようやく枯れ果てたはずの涙が、また湧き出してきた。

 身体がカラカラに乾いちゃうんじゃないかってくらい、目から涙が溢れて、溢れて、止まらない。


 あたしは、喋れることは全部、大人の人たちに喋った。

 警察の人たちは、「絶対捕まえるからね」ってニコってしてくれたけれど、どこか悲しい目をしているように見えた。

 お母さんも含めて、大人たちは、あたしに何かを隠してる。

 それはたぶん、優しさなんだろうなって思った。だからあたしは、何を隠しているのか、追及したりしない。

 っていうか、グチャグチャな心が、知ることを拒否してた。

 大人が隠したいのなら、別にあたしは知らなくていいんだって、思い込んだ。


 あたしは、学校に持って行くもののほとんどを失った。

 今まで使っていた、思い出が詰まったものは全部、犯人と一緒に、車でどこかへ行ってしまった。

 だから、だと思っているんだけれど、しばらく学校を休んだ。

「何にもないんだから、仕方ないじゃない」

 そう言って、お母さんはよく、おびえたように笑った。

 だけど、ずっと学校へ行かないわけにはいかない。

 それに、学校へ行きたくなくて休んでいるわけじゃない。

 だから、あたしはお母さんと相談しながら、じっくりと時間をかけて、必要なものを揃えていった。

 正直、けっこう長い間休んじゃってるから、また学校に行った時、授業について行けるか不安。

 だけど、どうにかしようと思えば、どうにかできるかな、って思ったりもする。

 根拠は、ないけど。


「ノートとか筆箱とかはそろったし……ああ、いれるカバンがないんだった。卒業まで一年無いんだし、ランドセルをまた買うって感じじゃ、ないよね?」

「そう、だね」

「ねぇ、お母さん。リュックで学校に行っても、いいのかな」

 お母さんに相談をしたら、お母さんはなんだか複雑な顔をして、小さく笑った。今の今までにらめっこしていたスマホを、ごまかすように急いで隠した。

「なに見てたの?」

 悪いことをした人が、隠していた証拠になるものをしぶしぶ出すみたいだった。

 何も悪いことをしていないはずのお母さんが、とる必要がない動きと、纏う必要がない雰囲気だと思った。

 だから、あたしは少し強引に、スマホの画面を見た。

 お母さんがこうなってしまっている理由を、あたしは知りたかった。

「ランドセル? 黒?」

 スマホの画面は、フリマアプリを表示していた。画面の中にはたくさんのランドセルが並んでいた。これまで、あたしが使っていた色じゃない、男の子がよく背負っているような色のランドセルが並んでいた。

「あ、ああ、いや。ランドセル、いいのあるかなって思って、見てみてただけなの」

「ふーん」

「ジュアは、リュックでもいいの?」

「うん。まぁ、でも、浮くかな」

「みんなランドセルだからね。一応、先生に訊いてみようね」

「うん」

「あ、そうだ。ねぇ、ジュア。髪の毛……切りに行かない?」



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