第29話
少しすると、犯人が腰を浮かせた。しばらくすると、また浮かせた。
あたしのほうをちらっと見て、それからキョロキョロ何かを探し始めた。
カチ、カチ、カチって、ウインカーが鳴る。
車がどこか、駐車場に入る。
ここは――コンビニだ!
犯人は、あたしのことをじーっと見てから、車のドアを開けて、外へ出た。
ピピッて音がした。たぶん、車にロックをかけたんだ。
あたしは寝ているふりを続けながら、寝返りを打つみたいに、グラン、って身体の位置を変えた。
薄く開けた目に、コンビニが見える。前向き駐車だ。それで、お店の中は……そこまでは、この体勢と細目じゃよく見えない。
心臓がバクバク言ってる。今数える一秒は、いつもの一秒よりも何倍も速いんだろうなって思った。だから、出来るだけゆっくり、いーち、にー、さーんって、十まで数えた。
それから、少しずつ目を開けていく。
よし、今だ!
パチッ!
開けた目は、ゆっくりと閉じる。
あたしは少しずつ身体を起こした。
トイレに入っていく犯人の背中を、「見ちゃダメだよ」って言われたときに「見てないよ」って言いながら見てる時くらいの、近くから見たら目が開いてるってバレちゃうんだろうピクピクした細目で見た。
トイレに入った! 姿が見えなくなった!
あたしは、呪い屋さん。さっきは願って失敗しちゃったけれど、こんどはちゃんと、あの人に呪いをかけられた!
あたしがかける、最後の呪い。
ちゃんとかかってくれて、ありがとう。
あたしはこのチャンスを、絶対に無駄にしないから!
ふぅ、と大きく息を吐く。
まだ、心臓がバクバク言ってる。
それはどんどん強くなって、今にもパーン! って破裂しそう。経験したことがないくらい、胸が痛い。
もう一回、ふぅ、と大きく息を吐く。
「……よし!」
あたしは車のドアのロックを、解除した。
ビーッ! ビーッ! ビーッ!
ロックを解除したら、警報音みたいなけたたましい音が響きだした!
あたしの身体は、ガチン、って固まった。
お店の中から、誰かの視線を感じる。
ハッとした!
逃げなくちゃ!
急げ、急げ!
このチャンスを逃したら、あたしはもう、お家には帰れないかもしれない!
あたしは車から飛び出して、コンビニに飛び込んだ。
「た、たた、た!」
「え、ど、どうしたの?」
店員のお姉さんが、びっくりした顔であたしを見る。
「た、たた、助けてください!」
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