12.呪い屋さん
第28話
――呪え、呪え! お前は、呪い屋さんなんだろ?
そんなこと言ったって!
あたしの瞼の裏にいる、あたしが〝呪い屋さん〟だって知らないはずの人たちが、あたしのことを責める。
――呪え、呪え、呪え!
でも、あたしはもう、呪いたくなんかないんだ!
そう思うから、たくさんの言い訳を考えては、瞼の裏に映る人たちに向かって、心の中で叫んだ。
『だいたい、あたしもう、呪えないもん! 呪おうとしたもん! でも、願っちゃって……。だから、もう無理なの! 呪い屋さんは、おしまいなの! やめるの! それで、あたしは――ふつうの子として生きていきたいの!』
――弱虫!
――ガキ!
――クズ!
『そんなこと言うなら、あたしに教えてよ! あたしは弱虫で、ガキで、クズなんだから、わかんないんだもん。どうしたらいいのか、わかんないんだもん!』
瞼の裏が、バカにしたような気持ち悪い笑顔で埋まる。
『もしもあたしが、この人が死んじゃえって呪ったとして、事故を起こしたらどうなると思う? そうしたら、あたしだって死んじゃうんだよ? ああ、いや、そんな、死んじゃえとか、呪うつもりはないんだけど……でも、どうしたらいいっていうの?』
――ケラ……ケラケラ……ケラケラケラ!
『あたし、こんな人、お巡りさんに捕まえてほしい! でも、あたし、スマホとかそういうの、持ってないし。だから、お巡りさんを呼んだり、できないし。この人はそういうのを持ってるんだろうけどさ、それを奪い取るなんて、そんなことできないし』
瞼の裏にいたダイキが、お腹を抱えて笑いながら、どこかへ消えた。
あたしはその時、あたしのお腹からの小さな声を聞いて、閃いた。
でも、勢いそのままやったら、きっとよくない。もっと、ちゃんと、考えてから行動に移さなくちゃダメだ!
あたしは首をカクン、カクンってさせた。だんだんカクン、の間隔を長くする。そして、身体はグラン、グランってする。時々、椅子とかにゴツン、ってぶつかる。わざと、ゴツン、ゴツンってぶつける。
そうして、じっくりじっくり雰囲気を整えてから、あたしは寝たふりをした。
気づかれないように、うすーく目を開けて、チラチラと見えるところだけ見る。
耳がいつも以上に、いろんな音を拾ってくる。肌がすごく、チクチクする。まるで、目の代わりに、世界を見ようとしているみたい。肌が何かを感じ取ろうとしてる。
あたしは、心の中で、自分が感じてる今の感覚よりもずっとずっと強く、想った。
――トイレに行きたい。あたしのお腹の中にたまってるものが、ぜーんぶこの人に移ればいいのに。この人も、トイレに行きたくてしょうがなくなればいいのに。
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