第27話


 キキーッ!

 

 少し強いブレーキで、あたしの身体はグラッと揺れた。

 頭の中の考え事のパズルが、揺れた拍子にパチッとはまった。

 ハッとする。

 あたし、願っちゃってる。恐怖を感じますように、身体がブルブル震えますようにって、願っちゃってる。

 あたしは〝呪い屋さん〟だっていうのに――呪えていないんだ。

 なんで〝叶え屋さん〟じゃないんだろう。

 何かの力をもらえるのなら、呪うとかそういうネガティブにきこえるようなものじゃなくて、叶えるとかそういう、ポジティブなものがよかったな。

 だって、あたしがこれまでやってきたことって、たぶん、叶え屋さんでもできることなんだもん。

 たとえば、友だちのことを悪く言う人がいたら、友だちが悪く言われませんように、って願う。

 お腹が痛い人がいたら、お腹の痛みが無くなりますようにって願う。

 そうすれば、不幸な人なんて生まれずに、みんなで幸せになれたはずじゃん?


 ああ、いるかどうかわからない、神様。あたし、もう呪い屋さん、やめたいです。

 叶え屋さんになれたらいいけれど、なれなくてもいいです。

 不思議な力なんて、要らない。普通に、何となく幸せに生きていられれば、それでいいです。いろいろあるだろうけれど、こういう〝とっても嫌なこと〟がない人生がいいです。あたしだけじゃない。生きてるみんなが、何となく幸せに生きられる世の中がいいです。こういう〝とっても嫌なこと〟を、誰も経験しないですんだらいいなって、あたしは思うんです。

 そんなの、夢物語なのかなぁ。

 そういう、優しい力が欲しかったよぅ。

 今まで、ごめんなさい。今まで、ありがとうございました。

 神様。ねぇ、神様。

 いるんだったら、あたしのお願い、ひとつだけ、聞いてくれませんか?

 あたしが何歳まで生きるのか、あたしにはわからない。でも、約束します。これが本当に、一生のお願いだって。

 これからもたくさん、神様に助けてって言いたくなることが起きるかもしれない。でも、その時はあたし、頑張って、自分の力で乗り越えるから。助けてくれなくてもいいから。

 だから、このお願いだけは、どうか。

 どうかあたしを――お家に帰してください。

 強く生きていくチャンスを、あたしにください。

 どうか、どうか――!


 目を閉じる。

 真っ暗で、ちょっと赤くて、まだらな明かりがある。

 瞼の裏のスクリーンに、あたしが最近呪った人の顔が、はっきりと映った。


 ――ぼくらのことは、おれらのことは呪ったくせに、なんでそいつは呪えないんだよ!



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