11.いかのおすし

第25話


 心がチクチクしていたから、帰る時、「一緒に帰ろー」って誘ってもらっていたけれど、断った。

 ひとりになりたかった。

 いつもの道をトボトボと、考え事に夢中になりながら歩いた。

 家の近くは、道路が狭い。

 車二台分くらいはあるだろうけれど、すれ違うってなると、どっちかが止まって、どっちかを先に行かせている様子をよく見る。

 なんで止まるんだろうって、小さい頃はずっと不思議に思っていた。

 電柱が邪魔なせいでそうなっているって気づいたのは、そう遠くない過去のことだ。

 このあたりは家ばかりが並んでいて、お店があるわけじゃないからか、見たことがある車ばっかりが走る。

 でも、近くで新しい家を建てる工事をしているのと、宅配便の車がよく走っていることもあって、ずっと遠い過去と比べると、見たことがない車が増えている。

 あたしは、考え事を続けたまま、ぼーっと角を曲がった。

 その時、後ろから来た車が、あたしのことを追い越した。追い越して、少し先で、止まった。

 見たことがない車だったから気になって、歩きながらじーっと見つめる。

 あんな車のことを、なんて言ったっけ?

 この前、黄色いナンバーの車のことを呪ったときに、車に少しだけ興味が出て、調べた。

 その時に、あの車の形を見た気がする。

 確か、バンだ。

 荷物を運んだりするときに便利なやつ。

 となると、きっとこの先の家を建てている、何かの作業をする人の車なんだろうな。

 家を建てるのはなんだかとっても時間がかかるみたい。

 それに、しばらくすると、建てにやってくる人たちが変わる。

 お母さんはそのことを、「家を建てる時にはそれぞれの作業をそれぞれの専門家が担当するからだよ」って、言っていた。

 なにかの作業が終わって、新しい専門家がやってきたんだろう、だから知らない車がこのあたりにやってきたんだろうって、あたしは結論付けた。

 そうして、車を気にしないことにして、歩き続けて、追い越そうとした。

 その時、

 ……ん?

 うまく言えない、変な感じがした。

 あたしは、この行為が無駄でありますようにと願いながら、ランドセルにつけてあるピンク色の笛に手を伸ばした。

 次の瞬間、車のドアがパカッて開いて、男の人が出てきた。

「こんにちは! 急にごめんね。この辺にさ、コンビニないかな? ちょっと、道に迷っちゃって」

 なんだ、道に迷っただけか。

 笛を手に取る必要なんてなかった。

 安心して、少し気が抜ける。笛をつかんでいた指から力が抜ける。

 緊張感を失った頭で、コンビニまでの道案内をどうすればいいか考え始めた。

 一番近いのは、学校から帰ってくる途中にあるコンビニだと思う。でも、それだと少し、説明が面倒くさい。

 とはいえ、ここまで迷い込んできているんだし、あたしが進む方向と同じ向きに車が向いているってことは、きっとあの大通りからこっちのほうへと来ちゃったはずだ。

 大通りまでの説明は、そこまでしっかりしなくてもいいのかもしれない。

「戻って、大通りに出たら、左に進んでください。それで、ええっと、二つ目の信号を――」

「あそこって、エブリマートじゃなかった?」

「……え?」

「あ、ごめん。オールデイズに行きたいんだ」

「はぁ」

 オールデイズか。近くにあるにはあるけれど、ここから道を教えるの、エブリマートよりずっと難しいんだよな。

 どう説明したらいいか考えていたら、



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