第24話


 のどのことばかり考えていた。

 普通の声で話すことを意識していたら、顔のことを忘れてた。

 たぶん、変にひきつってしまったと思う。

 コトちゃんの顔を見れば、自分の顔が変だったことなんて、鏡を見なくてもわかる。

「うーん……。当たった時は痛かったけど、今はヘーキだよ。まぁ、ちょっと擦っちゃったところは、石鹸で手を洗ったりするときにピリッてなるけどね」

「そう?」

「なんで?」

「あ、いや……。いつもよりトイレに行ってるなって、思って。だから、まだお腹痛いのかなって」

「ああ……」

 コトちゃんの顔が、少しずつ困った顔に変わっていく。

 あたし、変なこと訊いちゃったかな。

「じ、実は今日、一日目なんだ」

「……え?」

「生理。なんかさ、始まりたてって、すごくお腹痛くなるタイプみたいなの。あとね、前に、学校で漏れちゃったことがあってさ。スカートに血がついてたみたいなんだけど、気づいてなくて。なんか、変な目で見られてる気がするとは思ってたんだけど、その理由がわからなくて。それで、その時ね、男の子が教えてくれたの。『保健室行って、服借りたほうがいいよ』って」

「男子に?」

「そう。その子はお姉ちゃんがいて、生理のこととか、少しは知っていたみたい。でさ、なんか男子に見られたの恥ずかしい! ってその時一番に思って、だからお礼ちゃんと言わずに保健室まで走ったの。保健室飛び込んだらさ、なんか涙出てきて。保健室の先生にめっちゃ心配されたなぁ」

「そっか」

「服借りた後もね、何回もお礼言おうって思ったんだけど、勇気出なくていまだに言えてないの。最低でしょ? 最低だってわかっていても、できないの。それで、思ったの。漏らさなければ、同じ思いをすることはないし、お礼を言いそびれることもないって。だから、休憩の度に替えたくなっちゃうんだ。お母さんには『使い過ぎ!』って怒られるんだけどね。そんな感じ。ボールのせいっていうより、生理のせいって感じ。ごめんね、心配させちゃって」

「ううん」

「心配してくれて、ありがとう」

「ああ、うん」


 あたしは、呪う能力の使い方を間違えたんだ。

 きっと使い方がおかしかったから、お腹の痛みがうつるのに時間がかかったんだ。

 でも、間違っているのなら、呪いが効かなければいいのに。

 だって、なんか違うもん。こうじゃないもん。

 すごく、心がチクチクする。

 あたしは、謝らないといけないことをした。

 謝ったところで、どうにも信じてもらえないだろうから、謝れないことをした。

 お礼を言えないことを、コトちゃんは気にしてた。

 謝れないことを、あたしもコトちゃんみたいにずっと、気にし続けることになるんだろうな。



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