第23話


 ダイキのことを、アラタが心配してる。

『う、うぅ……』

『え、なに? ちょ、え?』

『おなか、いたい……』

 

 グルルルルル!


 教室のどこにいても聞こえてしまうくらい大きなおなかの音が響いた。

 教室がシーン、と静まり返った。

 ダイキが急に立ち上がる。椅子が倒れそうになったけれど、ガタン、となんとか持ちこたえた。

 そして、ダイキがヨロ、ヨロって歩き始めたかと思ったら、


 グルルルルル! プスッ!


 また、お腹が鳴った!

 ダイキはお腹を抱えて、ダ、ダダダ、ダダって変なリズムで走り出した。

 静まり返っていた教室に、クスクスと笑い声が響き始める。

「ダイキのお腹の音だったんだね」

「ってか、あいつ食事中だっていうのにさ、くっさいオナラしていったんだけど」

「え、マジ?」

「俺は匂わなかったけど」

「いいなぁ、めっちゃ匂った。ちょうど魚のフライを食べるところでさ、フライにオナラかけたみたいになった」

「マズそー!」

 ダイキがいないことをいいことに、教室の中はダイキをバカにするみたいな笑い声で満ちていく。

「はーい! 皆さん! 今は給食の時間です。おしゃべりに集中していないで、食事に集中してください」

 先生が言葉を使って、教室の空気を入れ替えようとする。

「はいはーい!」

「すみませーん」

 わかった様子も、謝る様子もない声が、ぽつり、ぽつりと響いた。

 何事もなかったかのように、みんなは再び給食を食べ始める。

 けれど、下膳の時間になってもダイキは戻ってこなかった。


 昼休みはよく、フリースペースを使って、みんなでダンスをしてる。

 今日も変わらずダンスを踊っていたけれど、コトちゃんは踊らなかった。今日は見てるだけでいいって、床にペタッと座っていた。

 しばらくキャッキャと踊っていたら、コトちゃんが「トイレに行ってくるね」って言った。

 あたしは別にトイレに行きたい気分じゃなかったけれど、「一緒に行く」って言った。

 コトちゃんにお腹のことを、聞いてみようと思ったから。教室の中ではそれを聞くことができないけれど、それを聞くのにトイレは絶好の場所だと思ったから。

「コトちゃん、お腹、まだ痛いの?」

 個室から出て、手を洗っているときに、あたしは訊きたいことを口にした。いざ訊こうと思ったら、なんだか緊張しちゃって、変な声になった。

「ん?」

 コトちゃんが、不思議そうにあたしを見た。

 あたしには、その不思議そうな目の理由は、あたしの変な声のせいだと思った。

 いつも通りにしなくっちゃ。

 そうして自分にプレッシャーをかけると、いっそうのどが変になる。

 変なのどをどうにかいつも通りにして、普通の声で言わなくちゃ。

「あの、ダイキが蹴ったボールが当たったところ」



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